薄暗い明かりの中で、布の擦れる音が聞こえる。
僕は其れを、何処か遠くで聞いていた。
体に伝わる彼の体温を受け止め、重みに耐え、息を吐く。
開放されてゆく腰周りを感じながら、唯唯、首に腕を回した。
包帯を伝わって感じる彼の唇の感触に、体が熱くなる。
「時一。」
耳元で囁く声に、頭の芯が、崩れてゆく。
耳に響く水音に、僕は、矢張りこれも、崩れてゆく。
「兄上、好きです。」
嬉しそうに、声無く動く口の感触を、感じ取った。
回した腕に力を込め、彼の手を、体温を、全身で感じ取る。
肌蹴た肌に触れる外気に、少しばかりの寒さを覚える。
寒さか彼か、其れはどちらとも取れないけれど、僕の胸にある一部は、固さを持つ。
其れを楽しむ様に、彼は指を這わせ、唇同士を重ねる。
これが、どんなに、心地良いか。
其れは僕が一番知っている。
言葉に出さなくとも、身体が其れを彼に教える。
下に伸びる彼の手に、腰が自然と浮く。
「ふ。」
鼻で笑う彼。其の声にさえ、身体は反応する。
胸同様、固くなり始めた其れを、彼は、まるで壊れ物を扱う手付きで、動かす。
其れにも矢張り、快感を覚える。
「気持ち良えか。」
其の声に、頷く。
顔が熱くなり、息が上がる。そうすると、彼の手の動きも、早くなるのだ。
何度も刺激し、其の度、背中がぞくりとする。
彼の手が触れる其処に、血、神経、感情が集中する。
「兄、上。」
息か声か、どちらとも取れない囁きを、彼の耳元で、出した。
どちらとも取れない。
乱れた息に紛れ、声が出ているのか、声に紛れ、息が荒くなっているのか。そんな事、どうでも良かった。
彼の手が、僕を頂点に誘う。
其れだけだった。
「ようし、ようし。」
優しい声と、頭と其処を撫でる手に、息が出来なくなるのを、知った。
「あ―、兄上。もう―。」
其の短い言葉に、彼は、うん、と笑った。
身体を走る快感に、言葉無く僕は、従った。彼の手から感じる自分の液体を、遠くで知った。
離れた手から、糸を引く其れに、僕は視線をやり、息を乱した。
「今日も、健康やな。」
笑う彼に、益々恥ずかしくなり、消してしまおうと、其の手に、自分の舌を這わせた。
響く水音。
彼は笑った。
「凄いなぁ。」
「何がです。」
舌を這わせた侭云う。
「うちには、自分の精液舐める、そんなん、出来ひんもの。」
離した舌から伸びる、薄い糸。僕は笑った。
「兄上のも、自分のも、違いはありませんから。」
同じ血が流れている其の遺伝子の塊を、違う物とは、思えなかった。
「時一のやったら、平気やのにな。」
「そうですね。」
何だかおかしくなり、笑った僕に彼は薄く唇を重ね、其の侭顔を、下に移動させた。
足の付け根に見える、彼の色素の薄い髪を軽く掴み、息を乱した。
「もう、良いです。」
そう云ったが彼は聞かず、暖かい舌を伸ばした。
「は―――。」
小さく声を漏らし、口を震わせる。何度されても、慣れない其の感触に、快楽か羞恥か、涙が流れる。
「兄上、もう、本当に。」
おかしくなってしまいそうな感触に、涙を流す。
「せやかて、さっきのは、時一が舐めてしもたやろう。」
「其れは―。」
舌で強く刺激し、先程の感覚が、又身体を支配した。
「口ん中で、出してな。」
「咥えた侭、喋らないで、下、さ―――。」
言葉の途中で、僕は我慢が出来ず、彼の口の中に、彼の望んでいる物を、流し込んだ。
震える其れと同じ様に、口を動かす彼。
離れた口からは、厭らしく、唾液か精液か、どちらとも取れぬ糸が引いていた。
垂れた水気を指で拭い、彼は笑った。
「もっと、可愛え姿、見せて貰うで。」
「嗚呼。」
彼の言葉と同時に、彼を受け入れる其処に、舌が触り、指の感触も触った。
指で広げられ、入り込む舌に、力が抜け、ベッドに沈んだ。
僕の声と、水音が響き、何とも厭らしかった。
疼く其処は、彼を求めていた。
其れが判る彼は、僕を仰向けからうつ伏せの状態にし、腰を高く持ち上げた。露になる其処に、顔が熱くなる。
「綺麗やな、ほんに。」
嬉しそうに笑う声に、身体が震える。
「ん――。」
彼の動く気配がし、先程迄彼が触っていた其処に、熱い彼の物を感じた。
其処を撫でる様に、彼の自身が動き、少し入っては出る、其れを数回繰り返した。
「物欲しそぉに、動くなぁ、時一の此処は。」
楽しそうな彼の声。おかしくなってしまいそうだった。
「兄、上―――。」
小さな声で懇願するが、其れでは物足りない様子で、彼は耳元で囁いた。
「何。どうして、欲しいんや。」
「兄上が―。」
「うん。うちが、何やの。」
羞恥と快楽、そして彼に支配された僕は、彼の顔を、少し見た。
楽しそうに歪む口元。其の顔にさえ、快楽を得た。
「兄上が。」
「うん。」
「あ、に。」
微かに入り込む彼に、身体が震えた。
「欲しい物は、ちゃんと欲しいゆわな、だぁれもくれへんよ。」
歌う様に云う彼の声に、口が震える。
「宗一さんが。宗一さんが、欲しいです――。」
微かに笑う声。同時に、奥深く入る彼に、僕は、声を無くし、震えた。奥深く入る度に、無くしていた声は大きくなり、彼の動きと、重なった。
崩れそうな身体に力を入れ、与えられる感覚に、声を出す。受け入れる喜びに、僕は、唯ナいていた。
彼の荒い息使いに、眩暈が起きる。
何度も彼の名を呼び、其の都度、感覚は激しさを増した。
「時、一。」
苦しそうな彼の声に、僕は息を吸った。
「御願い、中に。」
懇願した。
「あかん―。」
身篭る訳でもないのに、彼は、僕の中に出すのを嫌っていた。欲を中に吐き出す事に依って、僕を汚してしまう感覚に陥るそうだ。
「御願い。」
僕は、汚れも何ともしないから、そう云った。
耳元で響く彼の息使いに、受け入れている箇所に力が入る。
きつく、きつく彼を締め付け、離れてしまわぬ様にした。
「力、抜い―。」
そう、言葉は切れ、奥深く刺さった。
「あ、嗚呼―。」
奥に感じる、焼けてしまいそうな程熱い熱に、僕は声を出した。
「は―。」
彼の息に、僕は腰を離した。抜ける感覚に悦を得、僕自身も、熱を吐き出した。
力が抜け、其の侭ベッドに沈む撲の腰を、彼は、又引き上げた。
抵抗も無く入る彼の指。腰が強張る。
「もう、ほんに、この子は。」
掻き出す様に動く指に、処置的な何かを感じた。其れはまるで、宿った其れを、掻き出す様に。
「兄上の。」
僕は、呟いた。
「ん。」
掻き出しながら、彼は、優しい声を出した。指を伝って落ちる液体を、感じる。
「子供、欲しいな。」
其の言葉に、指が止まり、小さく笑う声が聞こえた。
「頑張れば、出来るかも知れへんな。」
「ええ、頑張れば。」
絶対に敵わぬ夢を持つ僕達は、其の晩、同じ夢を見た。




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