拝啓スガハラ様


受け取った手紙を分ける。大体は父、若しくは亡くなった事を知らない友人から母へ。そして、次兄。
暇を持て余している僕に此の仕分けは、丁度良い作業なのだ。
今日は何やら多い。姉上宛てもある。
「んー。渡しに行こうかな。」
幸い今日は、教師の来ない日だ。散歩がてら遊びにでも行ってみよう。最近滅法御無沙汰気味だ。
会いたくて仕様が無い。
そう思い、手紙を懐にしまった。
其の時、手が滑り、未だ仕分けし終わっていない手紙の束が床に落ち、散乱した。
余計な仕事が増え、此れは作業に含まれない為、息が漏れた。
目に止まった封筒。
他の物とは明らかに違う。
少しくたびれた様な、横文字の其れ。兄上のだと直感した。
しかし。
宛名を見て、疑問が出る。
「Su…ga…スガワラ…?」
兄上のだと思った手紙は、スガワラと云う名前だった。けれど宗一と書いてあった。
「スガワラ、ソウイツ…?」
益々混乱し、首を捻る。
「嗚呼、遅かったな。」
行き成り兄上の声が、後ろから聞こえ、僕は慌てて振り返った。
「兄上。」
「ん?」
僕から手紙を取り、封を開ける兄上。矢張り、兄上のだったのだ。
しかし、スガワラとは一体何なのだろう。
「其れ、兄上、のですか?」
「…うん。何で?」
首を傾げ乍ら手紙を読んでゆく。無言で紫煙を上げ読む兄上に声を掛けれず、又仕分けに戻った。
じりりっと何か焼ける音がし、そして焦げる臭いが辺りに立ち込める。
咥えていた煙草を紙面に付けたのだ。
ゆっくりと赤くなってゆく手紙を灰皿に落とし、封筒も置いた。
「あの…焼いて、しまうんですか?」
「うん。国家秘密やから。」
シニカルに笑う兄上。
「え…」
「冗談やて。」
そうして優しく笑った。
「読み終わたもん、取っといてもしゃーないやろ。」
「まあ、そうですけど。」
兄上は、燃やすのが好きだ。本でも着物でも、不要になった物は全て燃やす。まあ、燃やす以外処分の仕様は無いのだけれど。
「そういや。」
灰になった手紙を見詰め、思い出した様に云う兄上。
「さっき何か云い掛けて無かったか?」
「え?」
仕分けた手紙を紐で括り、僕の作業は終わった。後は姉上に手紙を渡しに行くだけだ。でも何か忘れている気がしてならない。
「気の、所為か。」
僕の頭を撫で、笑う兄上。
思い出した。
「スガワラって。」
僕の問いに兄上は、うん、と頷いただけであった。
「ですから、スガワラ…」
「せやからうんて。」
話が全く噛み合わない。
しかし、理解したのか、兄上は視線を逸らし、気の抜けた声を出し頷いた。
「知らへんの。」
「…はい?」
「いや、うちの名字。」
此れでもか、と云う位、僕は間抜けな顔を曝した。
「…え?」
「え?」
何と云う事だ。
兄上の名字は木島では無かった。
家族、そして恋人である筈の僕が、何故知らなかったのだろう。
「そ…」
僕は震えた。
「そんな話は…聞いてない…」
力が抜け、後退した。
姉上に会う為に。




*prev|1/2|next#
T-ss