愛した人は貴方だけ


色の無い世界な気がしたのに、橙色の明かりは白さを蓄え、部屋に伸びて居た。
貴方の亜麻色は微妙な色合いで、僕は少し、其れが怖く感じた。
僕の真赤な爪は気丈で、でも虚構みたい。
「乾いてませんから…」
云っても貴方は気にせず指先を舐める。柔らかく掴まれた手首は爛れそうで、途切れ途切れ息をした。
「兄上…。嗚呼、兄上…」
苦しそうな貴方の顔は悩ましく、僕をこうしてしまう貴方が嫌いで見たく無くて、目を瞑った。
「時一、時一…」
其の声も嫌。貴方の全てが嫌。
僕をこうしてしまう貴方何か、大嫌い。胸が苦しくて、貴方を欲してしまう馬鹿な自分が大嫌い。
貴方を愛しているのに。
僕の全て、貴方の物。容易く貴方は、僕を貴方の物にする。なのに貴方は違う。
此の快感。
貴方は知らないでしょう。貴方は僕を操る人間だから。
「舌、痺れて来たわ…」
「だから云ったでしょう…」
馬鹿な貴方。
貴方が辛いのは嫌。だから分け合う。なのに何故、分け合って居るのに貴方から与えられて居る気分。
僕は思う。
僕は貴方に支配されたい人間なのでは無く、支配されるべき人間なのだと。
だって貴方は絶対者だから。
其れは愛に似た見えない絶対。
「愛してます、兄上…」
舌と舌が離れる一瞬、此れは恐怖で、だから僕は繋ぎ止める為云う。
「離さないで…」
ずっと、一生、死んだ其の後も。死ぬ時は手を繋いで居て。
「御願い…」
「うん。」
平気で嘘を連ねる酷い人、貴方。




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