一番


「今…何時。」
彼は体を起こし、壁に掛けてある大きな時計に目を遣った。
体から少し離れた体温に、云い様の無い寂しさを感じ、目を瞑った。
彼は、僕が目を開けた事を、未だ知らない。
乾いた音が鳴り、煙草の臭いが、鼻を刺激した。
暫く其れを感じ、顔の近くにある手を握った。
「兄上。」
其処で僕は自分が起きている事を知らせた。
彼は顔を動かし、そっと笑った。
「御早うさん。」
其の笑顔に、僕も笑う。
とても、気分が良さそうだったから。
彼は、僕が横に居ないと、寝ない。
僕が居なくても目を閉じる事もあるが、其れはほんの数秒で、直ぐに目を開ける。
「良く、眠れましたか。」
「嗚呼、おおきにな。」
僕の髪を撫で、額にキスをする。
此れは、感謝の印。
「兄上は、何故一人で寝れないのですか。」
彼は視線を逸らし、少し笑った。
「うちが一番知りたいわ。」

云って欲しい。

僕が居ないと、機能しないと。

僕が、自分の全てだと。

言葉無く笑った僕に、彼は無表情で僕を見た。
紫煙が上がる。
部屋が、彼の匂いになってゆく。
とても、愛しい匂いに。

僕はこんなにも、貴方を愛している。

貴方が、僕の全てなのに。

貴方の居ない世界等、考えただけで、気が触れる。

「時一。」
柔らかい声に、僕は虚ろな目を向けた。
「何です。」
唇が重なり、煙草の味がした。
世界で一番、大好きな味。
世界で一番、大好きな匂い。
世界で一番、大好きな貴方。
世界で一番、幸せな時。
僕は、其れを、全身で、感じた。




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