I like you. I love you.


彼女と別れを告げ、今度は何時会えるかと其の背に聞いた。彼女は足を止め、毛先を揺らし少しばかり顔を私に向け、貴方が会いたいと思った時、そう笑った。
「琥…」
手を伸ばし、指先が髪に触れた。小さな声は彼女の靴音に消され、私は其れを消す自分の足音を聞いた。
「加…の…」
「愛しています…」
後ろから抱き締め、生憎私は俯いていた為彼女の表情は見て取れ無い。だらりと垂れる腕は微かに動き、しかし私に触れる事は無かった。
「貴女が、私を好きで無くとも構いません…唯、私は貴女を愛しております。」
彼女は震えた声で、嘘ばかり、そう云った。
嘘なものか。三年前、在の瞬間に、恋に落ちた。海に落ちる様に容易く、そして呆気無く溺れた。
「加納さんがあたしを好き何て嘘だ…加納さん、頭良いのに、何で同情から来る錯覚だって気付かないの…?」
私が彼女を好きだと思う気持は、父親と同じだと笑う。情けか暇潰しで構ったら懐かれ、結果情が湧いた、其れだけだと。
彼女は気付いて居ない。
自分は愛されない生き物だと信じ、他人が自分を構うのは動物と同じ其れだと。
何故気付かない。
彼女の周りの人間は、本当に彼女を愛している。愛され過ぎて、全く気付かずにいる。
云ったでは無いか。自分は愛されていないと。なら何故、何故。
「貴女はそうも笑っているではありませんか。」


愛されていない人間は笑わないと、貴女、仰ったでは無いですか。


自分が其れを良く知っていると。
強く抱き締めた筈なのに、何故こんなにも軽いのだろう。
ぼたりと彼女の目から涙が落ち、彼女は不思議そうに笑った。
「あれ…おかしいな…あたし…笑ってる…」
頭を押さえ、困惑する彼女の姿に、私はもう一度云った。
「私は、貴女を愛しています。笑う貴女が、大好きで、私の、全てです。私の愛を、全て差し上げます。」


ですからどうぞ琥珀さん、笑って下さい。
貴女の笑顔は太陽で、船は太陽を必要とします。
だから私は、貴女が必要なのです。




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