最強だと思わない?


「あたし、思うの馨さん。」
食事のケーキの生クリームを口端に付け彼女は真剣に云う。其の真剣さと生クリームは不釣り合いで実に滑稽で、私は笑う。
「亜米利加に勝つ方法。」
滑稽な口から出た言葉に、私は何時に無く耳を傾けた。
本来ならば、女が何を云おうが、まして十代の少女が云う言葉に関心等示さ無いのだが、彼女だからとそして亜米利加の単語。
私はカップを静かに置き、息を吸った。
「必勝方…?」
屹度此の時の私の声は癪に触る程高かったに違い無いが、彼女は身を乗り出し真剣に続けた。
「蝋燭が要るのよ。」
「…………はい?」
次は鞭、とでも云いそうな勢いであるが、彼女の目は真剣其の物だ。
「そして五芒星と白檀の香。黒い布も要る。」
「琥珀…?」
「馨さんは亜米利加の国旗と人形と五寸釘を用意して。」
彼女が真剣に話せば話す程私は笑いが込み上げ、けれど引き攣る事しか出来無い。絶対勝てる、問題無いと強く頷くが、問題しか見当たら無いのは何故か。
「あたし、元は英吉利人。」
今でも充分英吉利人な気がする。
「馨さん、日本人。しかも女狐。」
「御黙り為さい。」
夫に面と向かい、堂々と蔑称を云う其の根性は認め様。けれど必勝方は認め無い。
「馨さんは呪いで亜米利加元帥を弱らせて。あたしは何か凄い物を召喚する。」
真剣な彼女には悪いが、私は魔術や呪い事等一切信じ無い事にして居る。抑不可能だ。こんな真冬の夜中の二時に、白装束で裸足等死ぬ。亜米利加元帥を弱らす前に私が死ぬ。
彼女は良い。部屋の中ですれば良いのだから。けれど私は外。不公平では無いか。
「最強だと思わない。」
「ええ、そうですね。」
貴女の突拍子も無いクレイジーな考えはね、とも云えず、仕様が無いので、そして如何してもクレイジーと云ってやりたかっのでこう続けた。
「But, You must be crazy.」
「そうかすら…」
「時恵様の口調を真似ても却下です。」
「ケチ…」
不満げに彼女は頬を膨らまし、はたと考えた。
凄い物を、召喚。
……………木島さん。
馬鹿な。私迄一体何を考えて居る事か、全く全く……。




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