perverted play


此奴は全く暢気な奴だ。幾ら側近が外で見張りをして居ると云っても、鍵を掛けずに、椅子で寝て居る。俺が来ても気付かず寝息を立てる。
俺なら即刻目覚める。
ポジティブに考えるなら、其れ程俺の気配に安心仕切って居る、と云う所だろう。
「ヘンリー。」
「はは…キース駄目だって…」
耳元で囁いた。微かに反応はするが、未だ未だ夢の中。如何やら現実に戻して、現実の俺を教えて遣る時間が来た。
「ハニィ?本物の俺が居る。」
夢の中でも俺とイチャイチャして居る様だから、此れで気付くかは判らない。耳元に唇を付けた侭、足の付け根に手を伸ばした。最初は柔らかかったが、面白い様に固く為り始めた。
此奴、夢の中でも俺とセックスしてるんだろうか。
夢の中の自分に嫉妬した。
「は…」
「ヘンリー、ヘンリー…。愛してる…」
「ああん…もっと云って…。キース愛してる…」
御望み通り、現実の俺が云って遣ろう。囁く度ヘンリーの顔は恍惚と緩み、最初は起こす積もりで触り始めたのだが、ヘンリーの顔と声に我慢出来無く為って来た俺はベルトを外した。
此処迄されても起きないとは、一寸本当に暢気過ぎる。
顔は寝て居るのに、ズボンの下の本人はすっかり目覚めて居る。
「此れで起きるかな。」
気持良く寝て居るのだから素直に寝かせて於いて遣れ、とは俺自身でも思うのだが、俺は今、夢の中の俺と張り合って居る。夢の中の俺に負ける訳には行かないのだ。
すっかり目覚めた御子息、目覚めのキスを呉れて遣った。
「ううん………っ」
上目で見たが、未だ起きない。
夢の中で何を遣ってるんだ、此奴は…。ブロージョブされて起きないとは。
「ヘンリー。」
「ん…」
うっすら開いた目。
「ん…?」
然し、嗚呼夢か、と又閉じた。
「本物何だがな。」
「え…?」
ゆっくりと開いた目。俺を捉え、べたべた顔を触ると欠伸を一つ、机に置かれた眼鏡を手にした。
「何だ、キースかい…。何処ぞの色男かと思った。」
そして又欠伸一つ。暫く背凭れに身体を預け、口を動かして居た。ゆるゆると思考が繋がり始めたのだろう、引き出しにあるパイプを取ろうと、指先が頭に触れた。
其れからが素早かった。
「…………キースっ?」
「だから居るって。」
「一寸、何してるんだいっ?」
「ブロージョブしてる。」
「下手糞なのにかいっ?じゃ無くて…」
仕切りに額を叩き、状況を考えるヘンリー。此の不意打ちは、流石のローザ様も回避出来無いだろう。濡れた先にキスをすると身体を跳ねさし、然し考えなければ為らない事があり過ぎる為頭を振る。
「キース?」
「久し振りにブロージョブした。」
「下手糞だもんね。」
「そんなに下手か?俺。」
「何で同じ物持ってるのに下手なの?破壊的だよ。」
思考の繋がったヘンリーは、此の状況を楽しもうと決めたらしい。肘置きに腕を乗せ、俺を見下ろす。
「何時から居たの?」
「三分位前かな。」
「嗚呼、丁度セックスしてた。」
「現実では咥えられてた。」
「道理で気持良く無い。キースの所為かい。」
言葉はかなりきついが、飴と鞭、薔薇の微笑で顔を撫でる。
「如何遣ったら進歩するんだろうね、退化してるとしか思えないよ。」
此ればかりは如何し様も無い。何故下手なのか自分でも判らないのだから。
ヘンリーを気持良くさせたい気持は充分あるが、口は追い付かない。そんな口にヘンリーはキスを呉れる。
俺の口は、キスと愛を囁く為の物だと云わんばかりに。
「ん…咥えたぞ…?」
「でもキースは、出した後俺にキスするだろう?」
「其れはまあ。」
「其の方がよっぽどだよ。」
唇を重ねた侭俺を抱え、机に乗って居た書類を床に放り捨てると俺を座らせた。座り直し、タイを緩める。しっかりと俺の腰を固定し、腿に頭を乗せた。
「ブロージョブはね、こうするんだよ。」
近付く顔、腰を掴む手で其の侭ベルトを外し、口でジッパーを開けた。
汚れるから片方脱いで、と云われる侭少し腰を浮かせ、ヘンリーは器用に片足を空気に触れさせた。ぬるりと肉厚な舌が先に触れ、ブロンドが揺れる様を口を塞いで眺めた。
ヘンリーが上手いとしか思えない。俺は良く浮気をするが、勿論其の時も相手は咥える。なのにヘンリー程息が乱れた事は無い。神経が全て其処に集中し、快楽が自身を通って腰に流れる。そして、頭に甘い陶酔感を教えて呉れる。他の奴はそんな事、決して教えない。俺を貪るに徹底してる。
心酔する海軍元帥を、只管貪る。
俺は冷めた目で眺めるだけ、此れが“寝室でもサディスト”と呼ばれる理由。
「ヘンリー…」
「気持良いでしょう…」
「愛してる…」
「俺もだよ。」
愛が気持良さと比例して居るとは到底思えない。其れだったらヘンリーは気持良く為る筈、矢張り俺の技量の問題だ。下の粘膜が絡み合った時は死ぬ程気持良いから。
ブロージョブに関して愛は関係して居ないらしい。
「誘って呉れてる所申し訳無いけど。」
微かに腰は動き、俺の身体は奥迄ヘンリーを欲して居た。
「入れる積もりは無いから。」
「拷問だろう…」
「夜は沢山、ね?」
「御前は如何するんだよ。」
靴で指摘して遣った。ヘンリーは苦笑い、腰を引く。
「入れたいよ、そりゃ。でも、場所忘れちゃいそうでさ。」
判る、良く判る。何で此処が元帥室なのか、煩わしい程だ。本心は、今直ぐにでも此のプライド(軍服)を脱ぎ捨て、全身でヘンリーの体温を感じたい。布越しで無い体温を、片足だけでは物足りない。
「取り敢えず、君をイかすよ。」
其の後ヘンリーは何食わぬ顔で就業迄過ごすのか。
男の欲望ってのは女とは違う。女は見えないが、男ははっきりと判る。
快楽の中で考えたヘンリーの事。俺が上手いなら出して遣れるが、生憎俺は、手でも出して遣れない。口も手も下手と来る。
致命的だ、俺。
俺だけすんなり欲を吐き出した。
ヘンリーは口を閉ざした侭にんまり笑い、そして数秒後舌先で唇を舐めた。
「最近して無かったっけ?」
「四日前にした。」
「あれ、他は?」
「帰宅時間考えたら判るだろうが。」
「道理で。」
口を開き、口端を親指と人差し指で拭う。気持悪いのか紅茶で流そうとカップを覗いたが空だった。
じんわりと熱の篭る身体、血液がヘンリーへの愛を含んだ侭全身に回る。堪らず抱き締め、待って、と云う言葉も聞かずキスをした。
「もう…」
「気にしない。」
「自分のだよ?」
「知ってる。」
自分の精液の味なら幾らでも知ってる、今日は一寸ばかし舌が痺れた。
キスをした侭ヘンリーは俺の項を撫で、もう片方の手は下に伸びた。
「自分でするのか…?」
「しなきゃ、おっ立てた侭仕事する羽目に為る。」
荒い息遣いを顔で知り、ブロージョブみたいなキス。巧妙に蠢くヘンリーの舌、唇で知るにははっきりし過ぎる。
「キース、御願いがあるんだけど…」
吐息に紛れる声は俺を充分従わす。床に座った俺は願いの侭口を開き、舌を出した。其の上にヘンリーの先だけが乗り、舌に振動が伝わる。
「嗚呼良いね、此のオナニー方法。癖為りそう…」
俺を抱いて居る時と同じ息遣いでヘンリーは囁く。此れが堪らなく背徳的で、俺って男は如何してこうもヘンリー相手だと被虐的に為るのだろう。ブロージョブでもセックスでも無い、口を開いただけでマスターベーションの手伝い。
自分が物に為った気がし、興奮した。
「キース…本当に…困ったね…」
他の奴が見たら卒倒する。セックスもせず、マスターベーションをして居るのだから。だったらもう擦り合わす位すれば良いのに、其れだと興奮は薄れて仕舞う。
「ヘンリー…ヘンリー…」
「やあもう困ったね、セックスしたい…。今直ぐ突っ込んで遣りたい…」
此の被虐の連鎖は何なのだろう。全く興奮して、ヘンリーで無くとも癖に為りそうだ。
「キースさぁ…」
「うん…?」
「顔に掛けられた事ある?」
ある訳が無い。俺を抱くのはヘンリーだけで、何で浮気相手が態々俺の顔に掛けるんだ。そんな面倒臭い。腹に出せば済むのに。
「無い…」
「そっか。」
俺を映し出す海は揺れ、下瞼が赤味を増す。此の時のヘンリーの顔は、ぞっとする程美しい。苦渋の笑みを浮かばすローザの顔も大好きだが、一身に快楽に突き進むヘンリーの顔は、夕刻の白薔薇に似て居る。
ヘンリーは薔薇に比喩される。勿論赤い薔薇、だけど俺は白薔薇に思えて為らない。
白昼見る真っ白で汚れを知らない花弁は、夕刻に為ると欲望を孕んだ様に色付く。沈み行く夕日に身体を高揚さし、完全に暗く為った其の時、月光を一身に浴びる。朝方にはうっとりと、花弁を霧に濡らす。
目元が一層赤味を増し、隠す様に閉じる。厚みを増した唇からは絶えず息を吐く。
「ヘンリー…」
「キース…嗚呼もう駄目…イく…」
「あ………」
花弁が一枚、又一枚俺の顔に落ち、唇を伝って味を知った。其の濃密な薔薇の味は、俺の快楽を引き摺り出す。手を伝い、床に落ちた俺の愛。尽き果てたヘンリーは椅子にどすんと座り、荒い息を段々平常に戻す。
「タオルあげるよ…一寸待ってね…」
乾き切った喉、痛い程だった。
合った視線、思いは同じでキスで乾きを軽くした。
「仕舞った…、思い切り自分の味知っちゃった…」
「初めてヘンリーの味を知った。」
「あれ、無かったっけ?」
「口でイかせれない奴が如何遣って知れるんだ?」
「そっか。」
白い薔薇は倒錯した遊びを知って仕舞った。




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