M or S


「なあハニー。SとM、どっちが好きだ?」
後ろからハロルドに抱き着き、唐突にキースは聞いた。仙人掌の手入れをしていたハロルドは其の手を止め、腰に回るキースの手に自分の手を重ねた。叩き乍ら暫く考え、Mと答えた。答えたが此の二つを天秤に掛ける事、ハロルドには難しい。MもSも、ハロルドには魅力的で何方かを切り捨てる事は出来無い。
「Mが入ってSに行ったら、凄く最高だね。」
「嗚呼、俺も其れを云いたかった。」
咥えた筒状の紙を人差し指と親指で摘み乍らキースは答えた。肩に顔を乗せ、きちんとハロルドを見ているのだが其の目は少し虚ろで、其の顔に堪ら無く色を感じた。
「なあ、ヘンリー。」
少し掠れた声に又色を感じる。
「何?」
「ヘロインって、どんな感じ何だ?」
「…………知りたい…?」
楽しそうに緑は揺れ、眉を上げる。酔った状態で行き成りケツを蹴り上げられる感じ、そう云った。
「身体の全てが逆になる様な、堪らなく、気持良い。試してみる?」
「ヘロインを?冗談じゃない。」
其れに興味は無い。抑ヘロインは、英吉利だけでは無く欧州全土で禁止されている。軍人の二人に其れを手に入れる事は容易いが、二人には必要の無い物である。
ハロルドは二度と手は出したくないねと苦笑し、キースに至っては始めから興味さえ無い。ヘロインに溺れた仲間を何度此の目で見た事か、見れば見る程キースの興味は消えた。
「じゃなくて、ケツを蹴り上げてやろうかって事。」
向き直ったハロルドはキースの顎を触り、足をキースの足の間に置いた。
「此れじゃ、ケツじゃなくて股間だろう。」
云い掛けてキースは床に蹲った。置かれたハロルドの膝はキースの股間に直撃した。しかも一番痛い処に。
蹲り床を叩くキースを鼻で笑うとハロルドは離れ、尻を蹴った。
「F**king B**ch.」
罵り乍ら蹲るキースの尻を蹴り、蹴られた股間に振動が痛い。
「良くもSが好きだと抜かすな。誰とするとのが好き何だよ。え?」
「ごめ…御免…痛…」
「御免?御免為さいでしょう。いや、其れじゃ駄目だね。誠に大変申し訳無いって云えよ。」
「I'm so sorry...」
「Damu it.」
強く蹴り飛ばし、伸びたキースの姿にすっきりし、手に持たれた侭のマリファナを取った。
一口分の残りを吸い、水の入った如雨露に落とした。
「さあてと、キースも苛めた。マリファナも吸った。後はセックスだけだな。」
床に伸びた侭のキースはびくりと身体を揺らし、こんな状態でされたら堪った物では無いと逃げ様としたが又蹴られた。
「勘違いしないで。誰も君とするとは云って無い。」
「え…」
安堵。そんな訳は無かった。
「ヘンリーっ」
「Good luck, Mr.Bairy.少し出掛けて参ります。」
背中を踏まれ、情けない声を出したキースに目も呉れずハロルドは髪を解いた。
楽しそうに揺れる髪。
「ヘンリー…?ハロルドさんっ」
「あはは。今更云っても遅いよ。死ね、浮気者。」
ばたんと荒くドアーが閉まり、追い掛け様にも股間は未だ痛い。五時間後、マリファナと酒に酔狂し帰宅した楽しそうに笑うハロルドが、セックスをして来たのかは、ハロルドにしか判らない事だった。




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