ラテンが生んだ魔性の獣


己の変態加減は自覚して居る。何を如何自覚して居るかって?
……其れは俺にも判らない。
けれど俺は確かに変態で、救い様が無い。
俺は少年愛が強くて、究極のオナニスト。いやあ、良いよ。自慰は。サッカー少年の生足見乍らすると、其れは素晴らしいよ。
何が如何良いかって?
此れは一言では云えないよ。
勿論、セックスも大好きだよ。でもね、違うんだよ、セックスと自慰は。
セックスって云うのは、相手が居るだろう?俺の場合はキースね。
で、自慰って云うのは、俺だけだろ?頭しか要らない。
俺がセックスするのは、キースに触れたいから。セックス、と云うよりは、メイクラブだね。交尾じゃないよ、間違っても。
キースの声に息遣い、湿った肌に汗の味、歪むアクアマリンが堪らなくセクシーで、だから俺はキースとセックスする。
考えてもみなよ、在の声でだよ、荒がる息遣いの隙間から「ハニー、もっとして…」って上目遣いで強請られて御覧よ、股間が爆発するよ。実際、爆発するんだけど。
此れもね、キースが可愛いから何だよ。
普段は威圧感のキラキラロイヤルだけど。
だから一層ね、可愛いんだ。
家に居て、欠伸とかしたら、何か可愛くてさ、こう、ムラムラっと。首筋に鳥肌が立つ。おっと、股間もね。
仕事中は流石にセックス出来無いから、自慰に耽る。
嗚呼、キース、可愛いよ、世界一可愛いよ。
其の舌、もっと見せて。
其の可愛い俺しか知らない姿、もっと見せて。
そして俺を求めて。
死ぬなら俺の腕の中で死んで。
そう思う。
そんな俺って異常かな。
いや、異常でも良いんだ。今日も景気良く自慰して遣った。
ハロルド・ベイリー、只今、賢者タイムで御座居ます。
溜まった欲は吐き出して、溜まった仕事を片した。
「はい?」
紅茶を運びに来たのかと、叩かれたドアーを見た。
「……キース?」
「今、良いか?」
「うん?如何したの?」
ペンの蓋を締め、ソファに座ったキースを確認して背凭れに背中を預けた。
「何?如何したの?」
「一寸、な。」
何時に無く低い声で、口を組んだ手で隠す。
「なあ、ヘンリー。」
「何?」
「少し…、…ん?何だ、此の臭い。」
顔を上げたキースは鼻を鳴らし、俺は顔を逸らした。
キースが、俺の精液の臭いを無視する筈は無いんだ。
「ヘンリー…」
「いやだってさ。」
「御前は仕事をする為に来てるのか?趣味をする為に来てるのか?」
「両方を兼ねてるね…?」
引き攣った笑顔で答えたが、此れは何たる羞恥プレイ。自慰は趣味だが、其の趣味を恋人に指摘されると恥ずかしい。
「良いじゃないか、別に…」
「…………に…」
「え?」
「う、煩い…」
耳を赤くし、キースは外方向く。
一寸、一寸一寸可愛いよ、キース。其の耳、今直ぐ舐めたい。凄く熱いんだろうな。
「御免、何て云ったの?低くて聞き取れ無かった。」
「俺を…呼べば良かったのに、って…云った…」
「へ………?」
少し、尻が下がった。
「え?何?」
「ヘンリー…っ」
何を血迷ったんだ、此の世界一可愛い生き物は。
ソファから立ち上がったキースは、強引に唇を塞ぐと背凭れを強く掴んだ。
キースの力を受けた椅子は少し沈み、身体を割って入る熱い体温を知った。
「キ…」
「ヘンリー…、愛してる…」
「何…?如何したの…?」
何で俺、自慰何かしたんだろう。後五分、いや、十二分早く来て呉れて居たら、御望み通りブロージョブしてあげたのに。
欲望と云う泉はすっからかんに干上がって居る。
此の色男を前にして、だ。
畜生、俺の股間、少しは反応しろ。
「あー、待って、待って、キース。」
しゃがみ、俺を見上げて居る所悪いが、君、ブロージョブ、下手くそだろう?
「キース、一寸…」
頭を動かす度、髪の光沢が誘う様にうねる。大変魅力的で艶めかしい情景だけど、全く以て反応しないのは、賢者タイムだからだろうか。
困った事に、俺の息子は反応しない。
「ヘンリー。」
「ん…?」
「愛してる。」
キースは酒が入ると良く、猫に為りたい、と云う。何で?と聞くと、猫が好きだから。そら、俺も犬は好きだけど、犬に為りたいとは思わない。犬の人生って、人間に従うだけで、詰まらないと思う。軍用犬や警察犬なら楽しいかも知れないが、唯の愛玩犬とか自殺した方がマシだ。特に小型犬、陛下が溺愛する在の犬達を見ると、生きてる意味と云うか目的が無さそう。
本当、陛下の為だけに生きてる。
抑俺、小型犬って嫌い何だ。
愛玩で犬を飼ってる訳では無いから、小さい程、犬に見えなくて嫌いだ。何か、犬に近い兎、みたいな。小さいから可愛いじゃない、等頭悪い女が良く云うが、だったら兎飼えよ、と思う。犬は大きいから、犬何だ。猫が犬の大きさだったら気持悪いと思うだろう?小型犬は、俺にはそう映るから、大型犬が好き。ドーベルマンとか、世界一素敵な犬だと思うよ。ね、ヴィヴィアン。
だからと云って猫に為りたい訳でも無いけど。来世で猫に為らずとも、キースは今でも充分猫に見える。“陛下の犬”と皮肉られるが、陛下も、キースは犬と云うよりは猫に近いの、と仰る。
誰が如何見たってキースは猫。
世界一セクシーで可愛い猫。
俺の太股に頭を乗せ、くふくふ笑うのを見ると余計にそう思う。引き合いに出すには悪いが、シャギィとは違う種類。
シャギィも凄く猫に見える。と云うか在の子は本当に“猫”として生きて来た男。“人間に近い猫”と云ったら判り易いだろうか。キースは“猫に近い人間”、きちんとした人間。
「如何したの、キース。」
「うぅん…」
太股に乗る頭に上体をくっ付け、腰回りを撫でて遣った。丁度猫で云うなら尾の付け根。びくびくと背中を揺らし、其の振動が俺の全身に伝わる。
「如何したの。」
何度も執拗に聞くが、答え何か欲しくない。唯こうして身体を密着させ、答えの要らない言葉を掛ける事に意味がある。
「甘えん坊さんだねぇ、キースは。」
好い加減腰が痛く為ったので身体を離すと、寂しそうな目で一瞥、又頭を乗せた。
「もう嫌だ、もう嫌だ。遣っても遣っても仕事が終わらないのは何故何だ。何時終わるんだ、何時戦争は終わるんだ。」
ぐりぐりぐりぐり…。
強く擦り続けて居る所為で、キースの頭は位置を変える。無言で聞いては居るが、酷く痛い場所だ。
「痛い…痛いキース…」
神罰か、怠けてオナニーばかりして居る俺に神の怒りが来たのか。審判の日が来たと云うのか。そんな酷い。俺は未だ未だオナニーしたい、セックスだって現役を引退するには早過ぎる。
「止めて…止めてキース…、物凄く痛い…」
此の侭減り込み、女に為って仕舞うのでは無いか。そんな下らない不安と錯覚を覚えた。
「御前は良いな。俺の頭がパンク寸前だって云うのに、暢気に遺伝子の無駄遣い。嗚呼羨ましいよ全く、ローザ様々だ。」
「うん…」
凄く疲れているキースは、酷く愚痴っぽく為る。普段は嫌だが、今は状況が悪い。謝罪とも取れる頷きを繰り返す事しか出来無い。
「俺は如何したら良いのさ、キース。」
「キスしてハグして、そして俺の下衆遺伝子を無駄遣いして呉れ。」
キースが自分を卑下する時は、疲労が極限に来て居る時。
「御前だけ遺伝子の無駄遣い。許さんぞぉ。」
「判ったよ…」
そんな巻き舌で凄まなくとも良いじゃないか。いやほら、キースって西班牙語話すじゃないか、だから巻き舌が凄いんだよ。英語は巻き舌使わないからさ、俺、出来無いんだ。無駄に舌長い癖に。出来たらブロージョブの時便利かも知れないけど。
いや、でもな…。
破壊的な下手くそが目の前に居る。
関係無いのかも。
そう云えばシャギィが云ってたけど、管楽器奏者はブロージョブが上手いって。タンギングをするから。
此の馬鹿、ヴィオーラ何か弾かなくて良いから、ホルン弾きなよ。チューバでも良いよ。
嗚呼でも、嫉妬するかな、楽器に。
此の柔らかい唇と舌で喜びを知るなんて。
「ううん、柔らかぁい。」
「ヘンリーの舌も柔らかい。」
「…怒られたい?」
「いいや…」
キスしてハグして、くすくす笑って。
長い腕が背中に回る、目の前に澄んだ青空。互いの息で呼吸をし合って、酸欠状態。
「賢者タイムで良かった。」
「何で?」
「余裕無いから。」
透き通る青い目は影で濃さを孕む。キースの欲望、其の中に俺が居た。
「馬ぁ鹿。」
遺伝子の無駄遣いはディナーの後にね。たっぷりじっくり時間を掛けてデザートタイムと行こう。
此の猫には、其れが似合う。




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