酔いどれ


俺がそろそろ寝ようと考えた時、ヘンリーは帰宅した。今日は上層部連中でパーティーをすると朝云っていたから、当然酒は入っている。俺の様に普段から飲むなら耐久は多少あるが、ヘンリーは普段余り口にはしない。飲んで半年に一度。其れも狂った様に。普段飲まない分、爆発する。其れを充分知っている為、夜中だと云うのに玄関の外で別れの挨拶をする陽気なヘンリーな声には何も云わない。隣も気にしない。しないと云うよりは、元帥は相手に出来無い。気の毒な隣を気にしつつ、俺はやがて開くであろう玄関に向かった。
がちゃがちゃと鍵が開き、半分開いたドアーの隙間からヘンリーの姿が見える。
「あっはっはっ。又明日ねぇ。」
「はぁい、元帥ぃ。又明日ぁ。愛してまぁす。」
其の言葉に答える様に数回投げキッスをし、わはは、と何故か笑いドアーを閉めた。ドアーに寄り掛かり、俺を見ると、Hi、と云った。だから俺もHiと返した。
「キースぅ。」
座り込み乍ら両腕を伸ばすヘンリーに足早に近付き、床に座る前に腕を引いた。首に回るヘンリーの両腕を両手で掴み、気持悪く笑うヘンリーを見ていた。
「キースキース。」
「はいはい。マットが起きるから静かにな。」
「キースだぁ。」
ぐにゃりと仰け反り、顔だけ玄関を向く。此の侭手を放したら、階段を下りて来る在れになる。生憎俺はアドミラルでエクソシストでは無い。仰け反った侭のヘンリーを寝室迄誘導し様としたが、階段の処でヘンリーは止まった。正か、本当にブリッジで階段を登る気なのだろうかと思ったがそうでは無かった。
「良し、セックスし様。」
「は?」
そうヘンリーは云うが、俺は今から寝る。ばっちり寝る態勢だ。
返事をしない俺にヘンリーは気付いておらず、俺から離れると一人で階段を登り始めた。落ちはしないかと心配で下に居た俺を手招く。
「ほらっ。早くっ。早くおいでって。」
今度は俺が寝室迄手を引かれた。
電気の点いていない寝室は薄暗く、軍服を脱ぐだろうと電気を点け様とした俺の手をヘンリーは引いた。バランスを崩したのもあるが、其の気になったヘンリーの力は凄く、俺は容易くベッドにダイブをした。起き上がろうと試みたが、上から来たキスに動け無くなった。互いの吐く息遣いにヘンリーが動く度に聞こえる布の擦れ合う音は、酷く性を臭わせる。唇を離したヘンリーの顔は本当に奇麗で、抵抗する筈の声等出無かった。
「ヘンリー、其れは卑怯だ…」
「あれ?寝るんじゃ無かったの?キース。」
楽しそうにヘンリーは笑い、いとも容易く俺の眠気を奪ってくれた。服の上から互いに刺激し合い、完全な興奮状態に俺はなった。
しかし。
ヘンリーは興奮する処か、触り初めた時より其れを小さくしていた。
「ヘンリー…?気持良くないのか…?」
「んー。」
鼻から抜けた様な声に俺は手を離し、ゆっくりとヘンリーの下から出た。案の定ヘンリーは俺が居ない事に気付かず、少し動くと枕に頭を乗せ、しっかりと抱き締めると幸せそうな笑みを向けた。
「嗚呼、ハニー。愛してるよ。もう離さない。離すもんか。」
枕に嫉妬した。本来其の言葉は俺に向けられる筈である。
ヘンリー、俺と枕を勘違いし云った訳では無い。枕と認識し、其の笑顔を向けたのだ。そして愛を囁いた。
「ヘンリー…?」
呼んだが返事は無かった。
「おい、本気か?」
人を煽るだけ煽り、其のヘンリーは寝息を立て始めている。
「寝るのかっ?俺をこんな状態にして、御前は寝るのかっ?報復か?此れは報復なのかっ?」
喚き、揺すると緑の揺らぎを知った。
「あ、嗚呼、そうか。セックスし様としてたんだ。忘れてた。でも眠いや…。又今度。」
「おおっ?待てよヘンリーっ。此れは虐待だっ」
此の状態で俺に寝ろと云うのか、此のセクシャルエンジェルは。いや、今のヘンリーは悪魔に見える。悪魔其の物だ。
淫魔だ。此れはもう淫魔だ。俺の欲を掻き立てる淫乱な悪魔だ。
「ヘンリー、ヘンリー。ハロルドさん。」
「んー…。キース、愛してる。あっはっは。嘘だよっ馬ぁ鹿。」
「うんっ、俺も愛してるっ。だから寝ないでくれっ」
自分で処理をしてしまえば良い話だが、俺を起こしておいて自分だけ寝る根性が頂けない。
ヘンリーは枕から頭を上げると数回頷き、強く俺の其れを掴んだ。
「嗚呼、確かに此れじゃあ寝れないね。可哀相。」
「其の可哀相な状態に誰がした。」
「俺だねえ。」
あははとヘンリーは笑い、ゆっくりと手を動かした。
「おかしいな、確かにセックスする気分だったんだけどな。」
ヘンリーの声が耳を埋め、ベッドに手を付いていた俺の腕は、感覚と云う感覚で知る快楽に震えていた。
目は、ヘンリーの髪を見る。
鼻は、ヘンリーの匂いを知る。
舌は、ヘンリーの汗を味わう。
耳は、ヘンリーの声を聞く。
身体は、ヘンリーの体温を知る。
「ヘンリー…。ヘン、リー…」
腕は、ヘンリーの身体の大きさを計る。
「キース。キース。愛してるよ…」
ゆるゆると動いていたヘンリーの手は速くなり、腰が浮いた。快楽が腰に集まる。
「嗚呼、手、疲れて来た…」
「え?」
俺の声と一緒にヘンリーは手を離し、何処迄悪魔何だと心で叫んだ。しかし、矢張りヘンリーは天使だった。
「ズボン脱いで。口でしてあげる。もう手が疲れた。始めからこうすれば良かった。」
脱いで、と云った割にはヘンリーが脱がし、折った俺の膝に手を乗せ、頭を沈めた。ヘンリーが吸い上げる度、俺は快楽に吸い上げられた。
後少しで、快楽と云う海の海面に顔が浮かびそうだったのだが、流石はヘンリー。悪魔である。
「寝るなよ…」
海底に沈められ必死に浮上し、鼻先が空気に触れ、やっと呼吸が出来る、そう歓喜した矢先又沈められた気分だった。
俺の其れに唇を付けた侭ヘンリーは今度こそ本気で寝ている。
「ヘンリー…此れは本当に…」



ドメスティック・ヴァイオレンスは、止めてくれ…




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