薔薇の支配者―ROSA―


人は良く、俺の事を“薔薇”だと比喩する。
最初に云われたのはダンサー時代で、ライトに反射する髪と汗が朝露を受けた薔薇に似て居ると云うのだった。
次に云われたのは、茨に身体を締め付けられる激痛と、もっと大輪を咲かす筈だった未来に悲鳴を上げる“枯れた薔薇”だった。
朽ち落ちた其の後には“薔薇の蕾”と呼ばれ、大事に育てられた俺は其処から回転する様に開花する花弁みたく大きく成った。
そして云われた“薔薇の支配者”。
何時でも薔薇は、俺に従った。好きな花なら未だしも、大して好きでは無い花に比喩されるのは正直好ましい事では無い。此れは皮肉と取っても問題無いかも知れない。
扱い難く手入れが大変で、害虫に好かれる、其の結果は必ず此の目に見せてくれるが。だから“花の女王”と呼ばれるのかも知れないが、俺には納得行かなかった。花の女王はダリアだと母親から聞いた。此れは母親がダリアと比喩された事に始まる。だから俺は幼い頃から、ダリアが花の女王だと信じて居た。
けれど実際は、大半が薔薇を其れだと云う。
無理も無いかも知れないと、最近思い始めた。
英吉利の国花は薔薇、そして君臨するはMy lady。薔薇が女王で無ければ、納得されない。
「貴様は、嫌いだが、薔薇に良く似ておるな。」
「左様に御座居ますか、陛下。」
「もちっと歓喜せぬか、褒めておるのだぞ?」
「恐れ乍ら陛下、私は薔薇が嫌いで。」
「ふん、同類嫌悪か。」
云われて、気付いた。
俺は本当に薔薇だった。
手の掛かる扱いも、其の結果も、魅力する姿も、“薔薇の支配者”は皮肉でも何でも無かったのだと、鼻歌を流す陛下に知った。
「差し詰め私は、プロテアよの。」
「王冠が、似ておいでですね。」
「キースは何かの?」
云って陛下はキースに視線を流し、片方の口角を吊り上げた侭扇を開閉させた。
「思い付かんな。貴様、余程存在感薄いのだな。全く思い付かん。もちっとキラキラを増やせ。」
存在感の無い人間は、花には成れない。だから俺は、薔薇に形容される。
薔薇は其の姿で見る者の美意識を支配する。
だったら俺は…?
同じ事だった。

――靴が汚れるのが嫌だからと、薔薇の絨毯(俺達)を踏み付けるだけ踏み付けて、価値が消えれば目障りだと側近に掃除させる…。流石だよ、ローザ様。

害虫は徹底的に駆除しなければ為らない。俺が薔薇で居る為に、未来永劫此の姿を保つ為に。
「だったら何?踏まれる価値も無い癖に、偉そうに吠えるな。悔しかったら、君が薔薇に成れば良い。尤も君は、そんな薔薇に羨望を持って群がる事しか出来ない、哀れな蛞蝓だけどね。」
此の花は枯れない。
此の姿を朽ちさせ様と目論む害虫が居れば、徹底的に駆除すれば良い。
二度と“枯れた薔薇”には為らない。
そう薔薇は、自分一人の力では、絶対に花を咲かす事は出来ない。姿を保つ事は出来ない。
そうして俺は、周りを支配する。




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