Bergamot and Demon


今迄見て来た奴の中で“其奴”は異様さを放って居た。
「来月より、アドミラル ベイリー直属部隊に配属されます、シャギィ・A・クルスです。」
一体どんなコネクションを使ったか、入隊時からの異様さは、はっきりと目に入った。
「志願したとか、クルス。」
「はい、サー。」
「そんなに甘くは無いぞ。」
俺の直属部隊はエリート中のエリート、人選するに当たっては、俺と陛下のみで決める。おっと、勿論寝室で。
シャギィを配属する等考えた事も無ければ、My ladyから一度も名前は聞いた事も無い。昇格した大佐が独断で決めたに過ぎず、彼を昇格させたのは間違いだったかも知れない。此れは反骨と捉え様。
其れはまあ良いとして、コネクションにせよ何にせよ、良く此の部隊に志願したなと、其の根性だけは買って遣った。抜擢された奴は大概嫌な顔をする。訓練は勿論、全ての事が一層厳しく制限される為、一度は僭越乍らと辞退する者が多い。然し、其れ相応の待遇、馬鹿でかい餌に頷く。
此奴の餌は、一体何であろうか。
他書類にはきちんとサインして居るのに、馬鹿でかい餌を記す書類にサインは無い。
「サインは、クルス。」
「嗚呼、其れね。」
行き成り砕けた態度に眉を顰めた。
「サインしないと駄目ですか?」
「駄目な事は無いが、しない場合は保証されない。」
「要らないけど。」
改めて書類を見るシャギィだが、矢張り要らないと首を振った。
「俺は一人だし、こんなでかい家も支給も手伝いも必要無い。家族も居ないから死んだ後の保証も意味無い。運転手付きの車は、まあ魅力的だけど…」
書類から流される視線。
「あんたの方が、魅力的だ。」
シャギィの前に垂らされた餌は、他為らぬ俺だった。此れはかなりでかい。
机に置かれた書類は俺の溜息で少し位置をずらした。其の上に置かれたシャギィの手。
「あんたさ。」
「口には気を付けろよ。」
「ハロルド・ベイリーと恋仲なんだってね…?」
「口には気を付けろと云った筈だが。」
強気に云うが、心臓は嫌と云う程縮んだ。サインしないなら構わないと書類を纏める手は震え、手袋をして居て良かったと心底思った。白い手袋の下は、外しても似た様な色に違いない。痺れ始めた指先では、書類に触れるのも痛かった。
「在の高飛車な独裁者を屈服さす唯一の男…、興味あるね。」
「おい、云い過ぎだぞ。」
「云い過ぎ、ね…?」
ヘンリーに深く関わらない人間は皆同じ考え、同じ印象、一般市民に至ってはもっと最悪な印象とシャギィは云う。
「詰まりアドミラルは、在のローザ様に深く関わってる訳だ。」
「当たり前だろう、元帥とも為れば必ず関わるんだ。憶測や噂で左右されるんじゃ無い。」
「じゃああんたの噂に左右された俺は、誠の馬鹿だ。」
「御機嫌取りは寝室で?」
鼻で笑って遣ったが、そんな事屁とも思わず鼻で笑い返された。
「そう、あんたの、ね。」
機嫌損ねた?だったら寝室に連れてよ。
シャギィはそう、俺を挑発した。




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