King with no‐crown.


俺はこんな唯我独尊な性格であるから、憧れの人が居ないと思われるかも知れない。
生まれた時から、欲しい物は全て手に入った。俺の手に無い物は、何も無かった。
親父の権力が恰も自分の物であるかの様に振る舞い、そして他人を制圧して来た。他の兄弟とは完全に違うどら息子と成り果て、俺に怖い物等存在し無かった。
一人を除いては。
俺は、彼を知らなければ、陸軍に等入ら無かった。好き勝手出来無い軍は正に牢獄、興味を持つ所か避けて居た。一生関わる事無いとさえ感じて居た。
其れが如何転んだのか、目指したのは陸軍の頂点、そして此の国を支配する事。
俺と彼は似て居た。
だから惹かれたと云っても良い。
白い軍服に長い髪を揺らし、他人を支配する目は、孤独を抱えて居た。興味は何時しか崇拝に変わり、心酔した。傍に居れば居る程、離れなれ無く為った。
彼は王様だった。
完全無欠の王だった。
俺は其の王様に触れたかった、近付きたかった、そして、王様の持つ全てを自分の物にし、完全無欠の王に為りたかった。
心酔とは即ち、成り代わりだった。
心から従った、心から尽くした。彼の全てに為りたかった。
此の王様は裸だ、或いは驢馬の耳だ、等と云いたい訳では無く、其の秘密を独り占めする事が目的だった。
完全無欠の王は、無冠の王。無い冠を頭上に掲げて居た。
其れを知った俺は、失墜させた。他人が知る前に、俺が変わりに無冠の王と為った。
飾りばかりの此の王座、座るのに必要なのは高い知性でも完璧な統率力でも人の心を掴む弁才でも無く孤独だった。
王最後の言葉は、「疲れた」。
完全無欠の王であり続ける為、無冠の王である事は知られては為らなかった。
「もう良いよ、元帥―――。」
周りは云う。
飼い犬に手を噛まれたと。
俺は噛んだ積もりも下剋上した訳でも無い。例え其の王がそう思って居ても。
刺した刀に流れる血は、王が俺を祝杯するワインに見えた。
「俺が代わりに、座ってあげる―――。」
抜いた時、彼は口からも祝杯した。
「木、島―――。始めから――。」
「違うよ、其れは違う。誓っても違う。」
完全無欠の王が完全無冠の王と為り、其れでも座り続ける事が許せ無かっただけ。
「俺の王様は、決して消えない―――。」
顔を流れる返り血を、少し舐めた。全く本当に、王様の血とは高貴であるか。全く味が無く、飾りだった。
此の椅子は、飾り立てた無冠の王が鎮座する為に存在する。其れに従うのは、決まって狼。
獅子と狼、強いのは、果たして何方であろうか。




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