スクリーンの夢


スクリーンの光が眩しく、私は顔を逸らした。
眩しいのは、本当にスクリーンから漏れる光だけ?そうじゃあない。
この光景が、恐ろしい程眩しいだけ。触れたかった人間が其処に居て、私に触れている。其の事実が、眩しいの。
とても綺麗で、恐ろしいの。
幾人の女を抱いた其の腕は、一体私にどんな夢を見せてくれるのかしら。甘い夢なら嬉しいわ。
ねえ貴方。
今の私は、綺麗かしら。
そう聞くと貴方は薄く笑って、「綺麗だよ」そう云った。
其れが嘘でも構わないの。
「変じゃない?」
「何処が?」
云って貴方は、私の突き出た胸を触った。
不思議な感覚に、私は身を預けたわ。
こんな大きな手、私は知らない。女の子の手は、とても小さいもの。其れに。
こんなに冷たくは無い。
男って、皆こうなのかしら。そう私は思った。
冷たさか快楽か、其れは判らないけれど、私の胸の頂は硬くなった。
「御前、男知ってる?」
「知らない。女しか、知らない。」
何だか嬉しそうに貴方は笑って、其の頂を口に含んだ。冷たい手に揉まれ、熱い舌で転がされる感覚が、私を支配した。勝手に漏れる声が、耳に入って、酷く感じた。
酷く腰が疼くのよ。
私達は、女の身体の柔らかさを知っている。私の身体は、柔らかくはない。腕だって、ほら。こんなに筋肉が付いてるの。だって、女の子をベッドに抱えて運ばないとでしょう。細い腕だと、出来ないのよ。
「抱き心地、悪いだろう。」
「悪くは無い。」
良くも無いけど、そう貴方は笑った。
「発育過程の男みたいな、そんな感覚。」
「そんな男を知ってるんだ。」
「自分の成長過程位判ってました。」
嗚呼、そう云う事かと、私は笑った。こんな私を相手にするのだから、てっきりそうなのかと思ったわ。
強く乳首を噛まれて、苦痛の声が出たけれど、袴の下の雌は血液を受けた。どくんどくんと、雌が高鳴っているの。
貴方は余程私の胸が気に入ったのか、しつこく離れ様としない。
「哺乳類は、皆、胸が好きなんだな。」
女の子もそう。自分にもあるのに、何故か好き。私は其れが不思議で堪らないの。
「哺乳類は、皆マザコンだ。ママのおっぱいが好きなんだよ。」
成程ね。納得出来たわ。
「生まれて一番最初に知るのが此れだからな。自然の摂理だ。」
だから貴方は、私を抱くの?
聞いたのに貴方は答えないで、唇を重ねた。其の度に、心臓と雌が強く脈打った。貴方は未だ知らないでしょうけど、其れはもう酷く濡れているのよ。其の感覚にさえ、私は感じてしまうの。
だって私、マゾヒストなんだもの。
だからそう、貴方に抱かれたいと思ったの。
私を見下す其の目が、酷く心地良いの。
下に伸びる貴方の腕を感じ取った私は、一層腰を疼かせた。早く、早く触れて。そう願った。
可笑しいかしら。私が、そんな事を思うのは。
手馴れた手付きで袴紐を解いてゆく貴方。ねえ可笑しいわ。
貴方全然着物が乱れていない。
其れ異様に悔しくて、喉元に噛み付いてやったわ。其の感覚。女の子と全く違う。汗の味が全然違う。女の子の汗は、何だか甘いの。其れは貴方も御存知ね。
「ざらざらしてる…」
私はそう素直に云ったわ。だって本当に砂みたいな感じだったんだもの。余り好きな感触では無かったけど、何度も舌を這わせているうちに、慣れてしまった。
そうして、動きの止まった貴方。深く息を吐いていた。
「気持ち良い?」
女の子には決して無い、喉元から突き出た骨を舐め上げた。確かに女の子も骨は出ている。けれど其れは浮き出ているのであって、突き出てはいない。
私は何度も舐めて、噛んで、愛おしんだ。此れが、貴方の其の素敵な声を作っているんですもの。
貴方の其の声、堪らなく愛しいわ。艶めいた其の声は、女の子と又違って、とても良い。
「攻めるの、好きか。」
「好きも何も、攻める事しか知らない。」
男装の麗人宜しく、私は何時も男役なのよ。偶に攻められる事はあっても。
「なら。」
云って貴方はソファに仰向けになった。貴方が、下。
「御手並みを拝見させて頂こうかな。」
挑発的な其の目に、私は何時も絆され、翻弄されるの。
「変わってますね。」
「滅茶苦茶気持ち良かったんだよ。」
嘘ばかり。貴方は嘘が御上手なのね。女を喜ばせる、其の嘘が。
嘘吐きな貴方には、少しばかり御仕置きをしなければね。
貴方に跨って、首筋を舐め上げた。漏れる息に、雌が疼く。
初めて間近で見る平らな胸に、私は少し怖気づいた。何てこんなに硬いのかしら。浮き上がった胸骨を舐め、同じ様に乳首を舐めた。
「んふっ…」
何故か貴方は笑った。
「擽ったい?」
「いや、気持ち良いなと思ってね。」
嘘。本当は擽ったいのでしょう。もっと攻めてあげたいけれど、私は其の下を触る事は出来ないの。
だって、初めてなんですもの。
帯の下で膨らんだ其れに触れる事は、出来ないの。
「何、終わり?」
意地悪く聞いた貴方。何て意地悪なの。赤面した私の顔、判るでしょう。
貴方は薄く笑って、強い力で私をソファに静めた。背中に、バネでも付いているんじゃないのかしら。そう思う程早く、強く。
「今度から俺に会う時、袴は止めてね。」
「何故。」
「袴解くの面倒臭いんだよ。だから俺、履かないんだ。」
そう。なら止めましょう。
好きにして良いのですよ。貴方好みの女になりましょう。
下腹部に触れる大きな手。嗚呼、其処は駄目。きっと貴方、私を嫌ってしまう。其処には、女としての機能を無くした私が居るのよ。
決して見る事はせず、指が這う。
「噂、マジだったんだな。」
「そうさ、私は自分で機能を潰した。」
丁度、そう子宮の上からナイフを突き刺した。何度も、何度も。原形を破壊したの。其れで、男になれると思ったから。
「怖い?」
「…良いや。痛かっただろうなと思ってな。」
痛くなかったと云えば嘘になるけれど、其れよりも、男になる気持ちの方が勝っていたの。そんな事、感じなかったのよ。
「止める?」
聞いた私に貴方は口角を上げ、一気に下に手を滑らせた。瞬間、雌が痙攣を始めたの。
私は声を出して、貴方にしがみ付いた。
「此処迄来て止めれるかよ。俺は紳士じゃねぇ。」
低い其の声に、私は打ち震えて、声と一緒に雌が垂らす涎の音を聞いたわ。
「行き成り…っ」
「指入るけど、きついな…」
そうでしょう。だってこんな、私は自分より細い指しか知らないのだから。自分の指さえ入れた事も無いのに、貴方の指は太過ぎるの。
其れでも私の雌は、貴方の指を飲み込んで、涎を垂らすの。
声が漏れる度に、だらしなく舌が見え隠れした。そんな私の姿が、可笑しいのね、貴方。楽しそうに笑っている。
「気持ち良いか?」
私は頷いた。
「だろうな。こんなになっちまってまぁ。袴濡れるぞ。」
「嗚呼、かも知れない…」
けれどそんな事如何でも良かった。貴方の指が、酷く気持ち良いの。
「其処っ…嗚呼…」
誰かの指で、此処迄高い声を出した事があるかしら。私はそう思ったけれど、多分此れは自分の声で無いと思ったわ。
だって、私が組し抱いてる時の女の子の声にそっくり何だもの。
「可愛い声出すな、御前。」
「自分でも驚いてる…」
「もっと聞かせて貰うけど、良いか。」
嗚呼、何て素敵な声。こんな貴方の素敵な声、聞いた事が無い。
喉の奥で笑う声を聞き乍ら、袴が抜けるのを知った。経験は無いけれど、男と女が、この後如何するか、私は知っている。
なのに、貴方は見事に私を裏切ったわ。
「嗚呼!駄目っ。其処は、本当に…」
貴方の熱い舌が、雌の涎を拭ってゆく。酷く濡れているのに、更に貴方は濡らすのね。指と舌が、中と外で、雌と遊んでる。硬くなった突起は、本当に弱いのよ。唯でさえ快楽に感覚を持っていかれているのに、歯を立てるのは卑怯だわ。
達しない、訳無いじゃない。
痙攣と収縮を繰り返す雌に、貴方は笑って、震える足を高く持ち上げた。肩に乗せ、上がる口角を知ったわ。
本当に貴方、楽しそう。
「痛いのは、我慢しろ。」
瞬間私は仰け反った。貴方の焼ける様に熱い雄が、私の中に入ってきたから。
貴方の荒い息を聞いていても、揺さぶられる度、痛くて仕様が無い。けれど、其れさえも私には快楽で、声が止まらなかった。
「井上、大佐…」
私は何度も貴方を呼んで、長い髪が頬に触れる。其の柔らかい髪と云ったら。
云ったら笑われてしまうけれど、私も昔は其れは美しい髪を持っていたのよ。
貴方も、覚えていらっしゃらないけど、御存知なのよ。
貴方の髪を見て、そんな昔を思い出したわ。嗤って頂戴ね。
「あっはぁ…っん…」
貴方は容赦無く私を攻めて、淫らな私を見て楽しんでる。
其の目。
酷く私を興奮させる。
艶に濡れた其の目。
「雅…」
掠れた艶めく息に混じって私の名前を呼ぶ。素敵で堪らなくて、しがみ付いた。
「井上大佐…井上大佐…」
身体が痺れ、眩暈が起きる。こんな快楽、私は知らない。男に抱かれるとは、こう云う事なのね。
痛みはもう無かったわ。だって其れ以上の快楽を貴方はくれるのだもの。痛みを感じる暇何て無いの。
「嗚呼…駄目…イッ…」
雌が蠢いて、其れを知った貴方は一層強く私の奥を突いた。
「もう…少し…」
快楽に顔を歪ませる貴方は、スクリーンに写る誰よりも素敵よ。
熱い貴方の息を耳元で感じ乍ら、私は着物を強く掴んだ。そうして、貴方は一気に私の奥に雄を突き刺した。
背中に虫が這った様な感覚に陥った私は、此れが雌の快楽だと知ったわ。
全身が震え、初めて精液を知った。
こんなに息を乱した貴方、見た事無いわ。だって貴方、何時も顔色一つ変えないんですもの。
貴方は優しい人。
全身全霊全精力込めて女を愛するのね。
だから私は、貴方を慕ってしまったのよ。
「愛してるぜ…」


罪な人ね。
貴方、大罪よ………。




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