月夜の契り


在る晩、月を眺めていた龍太郎の身体を何かが支配した。懐かしい感覚に龍太郎は悶え、月は輝き、其の様を見ていた。
御覧為さい、さあ遊ばせ。
月は、確かにそう云った。荒く息を乱し見上げた月は、そう美しい満月だった。
忘れていた欲熱が身体を燃やし、胸を掴む龍太郎の姿に時恵は不乱に掛け寄った。
時恵の声がぼやけて聞こえ、熱が嘲笑う。全身の血が荒く走り、胸を雄を熱くする。
「龍太郎様っ龍太郎様っ」
異変に時恵は狼狽し、医者を呼ぶか考えたが、掴まれた手首から直ぐに其れは不要だと知る。龍太郎の荒い息と熱は、容易く時恵の雌を呼んだ。
互いに懐かしい熱を知り、目が潤む。膝を突き、見上げ時恵の顔に、又熱が上がる。
掴んだ手を離し、其の侭頬に置いた。びくりと身体を揺らす姿が愛らしい。
久し振りに感じる夫の性に、時恵の心臓は高まり、其れはまるで初夜の様で、思い出す。
「龍太郎様…」
そう熱く漏れる吐息に龍太郎が平常で居られる訳は無く、厚い唇に唇を落とした。其処から一気に沸騰し、頭が白くなる。無心に唇を貪り、舌を吸い、荒い息と水音を聞いた。強く時恵の身体を抱き締め、時恵は息苦しさを悦に変え、龍太郎の首に腕を回し、髪を乱し、唇を貪った。
椅子に座る龍太郎の膝の上に、太股を露にし乗る。其の見える白い肌は我慢ならず、乱暴に布を割った。外股から滑る様に尻の膨らみを弄り、時恵の秘部に龍太郎の雄が当たる。
「龍太郎様っ龍太郎様…っ」
早くとせがむ時恵の声。
「嗚呼、判っている…」
手を離し、唇を重ねた侭時恵を抱え、其の侭乱暴にベッドに沈めた。片手で自身の紐を解き乍ら、龍太郎は深く唇に体重を移す。くぐもる甘い誘う声。
どれ程互いに望んだか。羞恥も、何もかも消え、本能が二人を支配した。最後に、こうしてベッドの中で髪に指を滑らせた時は、未だ長く、少しの揺れで、其の芳香を感じていた。けれど今は、こんなにも近付かなければ、欲誘う芳香は感ぜられなかった。
龍太郎は時恵の首筋に鼻を埋め、肺一杯に其の芳香を溜めた。
此の匂い。酷く懐かしく、眩暈を覚える。
時恵の匂いに包まれるのは、何も勘違い等では無い。時恵の生まれ育った此の部屋は、充分過ぎる程時恵の匂いを蓄えていた。
甘い柔らかな女の匂い。
頭の芯が呆け、龍太郎は首を振った。
柔らかい時恵の身体は、龍太郎を誘い、細い首筋に舌を這わせ、其の侭ゆっくりと膨らみを目指す。
龍太郎の舌が硬くなり始めた乳首に触れ、時恵は声を漏らし、髪を掴んだ。
ふくよかな胸が揺れる度、龍太郎は無心に舌を動かした。水音がする度、時恵の甘い声が出る。与えられる刺激に快楽が這い、秘部に濡れを感じた。其れは龍太郎にも判り、柔く揉んでいた左手を、腰のラインを確かめ乍ら、下に滑らせて行く。皮膚を通し、神経を刺激し、骨に達する快楽。時恵は其れを感じ、静かに声を上げていた。
異様に濡れる秘部は、龍太郎の指を滑らせ、中々触れさせてはくれなかった。指を離す度、糸を引くのが判る。其れに云い様の無い愛しさを感じ、龍太郎は笑う。時恵は何だか恥ずかしくなり、赤くなる頬を顔を隠した。
「如何した。」
「恥ずかしいですわ…自分でも、こんなに…」
其処迄して龍太郎を欲していた。ずっと。恥じる事でも、禁じられた事でもないのに、いけない事をしている気分になる。本能的な事は、何時でも理性的に静止させられる。其れが、長い間そうなっていたのなら、尚更。
人間として努めるか、将又、動物として努めるか。
満月だった。或の時も。
獣だった。
ハジメカラ。
まあるい月夜に身体を重ねた男と女は、最期迄、獣で在り続ける運命。
獣の月夜に、恥は要らぬ。
貪り合おう。骨の髄迄。
月下美人の傍で、蠅食い草は、嗤う。




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