同性愛のスゝメ


何度、此の光景に自分は胸を痛めれば良いのだろう。自分の好いた男は、何時も女達に囲まれていた。待ち合わせの時間に遅れると決まって彼は違う女を囲っていた。そうして私を見ると意地悪な笑みを浮かべ、女を離すのだ。
彼が袴を嫌うから態々履かず来た。歩き難い事此の上無く、急ぎ足で来た自分が馬鹿らしく思えてならない。
だから今日は、日頃の恨みと云わんばかりに袴を履き、約束の二時間前に来てやった。
喫茶店に入るや否や、女達が色艶蓄えた目で自分を見る。

「加納様でなくて?」

「雅様でしてよ。」

「御一人かすら。」

「矢張り加納様だわ。」

そんな声を聞き乍ら、隅の席に座った。
女達の視線が自分に集まり、口に付けたカップを静かに置くと視線は散る。しかし、又集まる。ふと目を開け、前に座っていた女に笑みを向けた。女は赤面し、顔を伏せた。
「あの…加納様…?」
呼ばれ本から目を上げ、視線を流した。
「何か。」
矢張り本人だと女は小さく悲鳴を出し、口を手で隠した。其の手は小さく、緊張でか震えている。
「あの…握手を、して頂けませんか…」
消えそうな震える声に自分は笑顔で手を差し出した。握った自分とは正反対の手は湿っており、何だか可愛く思えた。幼さを宿す顔は羞恥と歓喜に染まり、紅葉を彷彿させた。


此の顔が、堪らない。

だから、止められない。

彼も、こんな気持ちが好きだから、女遊びを止めない。


「嗚呼、困った。」
女は赤い頬から少し血を引き、手とは正反対の大きな目を見開き、伏せた。
「加納様の御気も考えず、御免為さい…」
睫毛が作る影。
「いいや。」
自分が首を振ると女は首を傾げ、瞬きを繰り返す。
「私に此れから用事が無ければ、是非御相手して頂きたかったのですが、残念だ。今から来るであろう友人が憎垂らしいよ。奴が事故に遭い、貴女と出掛けられたら良いのに。」
そう微笑むと、女は湯気でも出そうな程顔面を真赤にし、すとんと綺麗に磨かれた床に座り込んだ。
立てなさそうだったので、細い腕を掴み、引いた。巻かれた髪が揺れ、自分は女の目を見た侭横に座らせた。
「少し、こうしていても。」
女の肩に頭を乗せ、ドアーを睨んだ。微かに肩は揺れ、力が入っていた。目を上に動かすと女の小さな色付いた口。まるでさくらんぼに見える。だから、美味しそうな唇、そう云った。
甘い匂いに柔らかい身体。


何で女ってこんなに綺麗なのだろう。


困るよね、本当に。




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