御貴族の憂鬱


英吉利は馬鹿だし、仏蘭西は全く役に立たないし、日本は何考えてるか判んないし、僕って何で、此の三国と手を組んだんだろう。
仏蘭西は後から入ってきたから、考えない事にして、英吉利。何で?
まあ、仕様が無いよね。親戚関係だし。…うん。
「マウリッツ。」
「…何?」
此れ、僕の奥さん。可愛いでしょう?って、見えないか。可愛いよ、凄く。一寸怖いけどね…うん。
「私の寝室に、ポング置いていかないでって何時も云ってるでしょう?」
僕達、寝室別なんだよ。夫婦なのに!昨日久し振りに一緒に寝たんだ。何をしたかは、へへ、想像に任せるね。素晴らしい夜だった事だけは間違いないよ。
一回知らない男が居て、驚いたんだ。何してるの?って咎めたら、貴方には関係無い事よ、出て行ってって逆に怒られたんだ。…うん。
僕の奥さん、僕の事を愛してないんだよ。僕と結婚したのは、まあ、ね。大人の事情。
「嗚呼もう、鬱陶しい髪ね。」
此れ、僕の自慢で、昔は好きだって云ってくれたんだけどな…うん。
「大体貴方。寝てるの?起きてるの?」
「起きてるよ。」
「ならもっとシャキっとしたら!?陰湿な空気!茸生えるわよ!?」
茸なら、下にもう生えてるけど。好きだよね?おっと、御免。
「生えないよ。僕は木じゃないもん。」
「図体ばっかでかくて、本当役に立たないわね。茸の一つ位生やしてみたら!?」
彼女、最初はこんな性格じゃなかったんだ。とても優しい人だったんだけど、僕に側室が出来てからこんな性格になったんだ。
僕が望んだんじゃないよ?女王陛下の命令だよ。…うん。
僕は次男で、国王にはならない。なのに何で側室が要るんだろうと思ったよ。確かに、僕の奥さん、結婚して暫くは子供が出来なかったよ。其れは認める。でもさ、国王にならない人間に、側室は要らないんじゃないの?僕に側室を付ける前に、先ず兄さんを結婚させるべきだと思うんだよね。僕、間違ってるかな。
僕と奥さんの間に子供は一人しか居ないの。後二人は側室が産んでくれたの。
此れに女王陛下は笑って、彼女を正妻の地から引き摺り下ろそうとしたんだ。彼女が今でも僕の正妻でいるのは、僕と彼女の親の必死な努力なんだよね。
少し位感謝してくれても良いと思うんだ…うん。
女王陛下は、彼女の事が嫌いなんだ。だから僕に側室を付けたり、其の他諸々の嫌がらせをするんだ。止めてくれって頼んだけど、聞いて貰えなかったよ。世知辛い世の中だよね…うん。
女王陛下、本当は僕に国王になって貰いたいらしいんだ。兄さんが結婚しないのも其の為。でも、女王陛下第一子の兄さんが国王になるのは、絶対なんだ。僕はそうだな、横で笑っておくね。
一度女王陛下と側近達の会話を耳にした時、震え上がったよ。兄さんを国王にしたくない女王陛下は、去勢でも何でもして其の権利を剥奪しろって云ったんだ。
此れが母親の云う事なのかな。
僕と兄さんは、母親が同じだけなんだ。だから女王陛下は、兄さんを国王にしたくない。
女王陛下、結婚は二度目で、兄さんは前の旦那さんの子供。結婚して二年位だっかかな、直ぐ離婚して今の王配、つまり僕の父親と結婚したの。前王配は、何処だったかな、今は小さな国の国王。
現王配の子供じゃない兄さんは、其の父親の居る国に送れって女王陛下は喚いているの。
兄さんが生まれた時、女王陛下は未だ王女だったからね。女王の座に就く時離婚して、僕が生まれたって訳。だから実質的に、“女王陛下としての第一子”は僕なんだよね。
兄さん、本当可哀相な人だよ…うん。少し足りないし…うん。何かの呪いかな…うん。
「マウリッツ王子。っと…此れは…」
「あら…」
あっちゃーぁ…正室と側室の顔合わせ…僕は此の時が一番嫌い。ヘンリーに会いに行くよりね…うん。
「王子。」
「…はい…」
うわぁ…声が物凄く低い…怖いよ…奥さん怖いよ。
「又暫く、私の寝室には来ないで頂けますかしら。」
「そんな…」
やっと昨日は入れたのに。
「ねえ、勘違いしてるみたいだから云うけど。」
…………怖いっ!
「勘違い…?私が。」
怯まず云うんだ!僕!
「僕は貴女以外の寝室に行った事は無いよ!?本当だよ!?」
此れは本当。子供が出来たのは、彼女が無理矢理僕の寝室に入って来たから。二人も出来たのは、まあ、気持ち良かったから。…うん、御免。僕だって男だから、本能には忠実なんだよ…男って、立っちゃえば終わりなんだから…
「そう。でしたら、寂しい夜はどうぞ、其方の方を寝室に御呼び下さい。では。」
ああああああ、やっと会えたのに。戦場から帰って一番に会いに行ったのに。女王陛下より先に会いに行ったのに。此れは酷い。
「マウリッツ王子…」
此れも、此れも、全部…
「何で僕ってこんなにだらしないんだろう…」
こんな事に悩まなくて済む兄さんが、物凄く羨ましいよ…
何処か遠い所に行きたい…一人で。




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