出そうな日


「御覧為さいな。」
彼女は笑って、庭を指差しました。
視界に、一番仲の良い男が映り、私は腰を上げ、
「いらっしゃい。」
「いらっしゃったよ。」
月が綺麗な、夜の事でした。
風は温く、まるで、何かが起きそうな雰囲気でありました。
「妖怪でも出そうな夜だな。」
「御前は、本当、其の類が好きだな。」
其の類、と謂われる物が嫌いな彼は顔を顰め、私を抓り、彼女は其れを見、薄く笑いました。
とても、幸せな時間で御座居ました。
私は酒を出し、彼と飲み、彼女も飲みました。
「妖怪と、化け物と、物の怪と、其れから。」
「霊、だな。」
「そうそう、違いは何だ。」
彼は笑い、月を見上げました。
「実際、判らない。」
「まあ。」
彼女は笑い、奥の部屋から、何かを持ち出し、床に広げました。私より、彼女の方が、詳しいのです。
「何だ、此の変な絵は。」
「此れが、世間で云われる、妖怪。」
彼は一枚手に取り、繁々と見詰め、又床に戻しました。
「厠に行けなくなる。」
「恰好悪いの。」
「黙れ。」
彼女は本当に楽しそうに笑い、私の肩に頭を乗せました。
「此の間、化け物、と云われたんだが。」
「嗚呼、御前は確かに化け物だ。」
「なら、私は鬼ね。」
「鬼―。」
「山姥だ。」
頭に激痛が走りました。
「山姥―。」
「未だ云って。」
「相済みません。」
「あはははは。」
彼は声を上げ、楽しそうに笑いました。
眠ってしまうまで、何時迄も私達は笑っておりました。

そんな、楽しい、月夜の話で御座居ます。




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