何も要らない


赤い、赤い、細い花弁が伸びる、彼岸花。
今頃。珍しい。
髪が風に吹かれたら、花弁も、同じに吹かれた。
在の時も、確かに、咲いていた。


「姉さん。」


大きく広がったスカートが踊る。
其の白い足の隙間から、赤い花が覗いた。
「危ないよ。」
目の前には、海。強風が吹けば、君何て、きっと飛んでしまう。
「珍しいわね。」
「何が。」
「彼岸花。」
「そんなの、水辺には、幾らでもあるよ。」
「そうね。でも、此処は海よ。川じゃないわ。」
「帰ろうよ。」
少しの無言。そして笑った。
「そうね。」
長い髪が、顔を隠した。
微かに見えた口元は、矢張、笑っていた。
君と歩く時、僕は絶対前を歩かない。
消えてしまわぬ様、きちんと、見ていたいから。
ずっと、見ていたいから。
愛して、いるから。
「姉さん。」
振り返った君に、笑ってみせた。
「なあに。」
「好きだよ。」
「行き成りなあに。変な子ね。」
でも、嬉しそうに笑った。
小さな背中に、そっと呟いた。
「本気だよ。」
一瞬足が止まった。
だけど、何事も無かった様に、又歩き出した。
揺れるスカートは、とても、綺麗だった。



「愛してる。」



「何て。」
低い声と、嫌悪剥き出しにした龍太郎の顔に、現実の感覚が戻った。
「別に御前に云った訳じゃねぇよ。阿呆。」
「俺を見て云っただろうが。」
「気の所為だって。」
「御前、最近良く、トリップするよな。」
「――――気の所為だって。」
花が、スカートの様に、揺れた。




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