愛の告白に撃ち抜かれて死ね
学生の本文、それは学業である。
わかっているのだがどうしても友だちと遊んだりバイトをしたりが優先になりがちになる。その結果、次の期末テストで欠点を50点以上取らないと単位を落としてしまうという窮地に立たされてしまった。
まぁ、自業自得なのだが。
先生がありがたいことに補講を行ってくれるというので参加しようとすれば、さして窮地に立っていない友人はみんな「先帰るね〜」なんて言って教室から出て昇降口へと向かってしまった。白状者たちめ…!
ため息を吐きながら中間テストでもっと勉強しておかなかった自分を恨みつつ補講の教室へと向かう。
「あれ?ミョウジも補講?」
補講の教室で適当な席を見つけて、かばんから問題集とノートを取り出していると隣から話しかける。声の主は特徴的な眉毛の不良で裁縫部部長という情報過多な肩書きを持つ三ツ谷隆だった。
「三ツ谷も単位やばいの?」
「ヤバくねーよ」
笑いながら当然のように返される。わからないところがあるから解決できるならと補講に参加を希望したらしい。真面目か。不良のくせに真面目か。
そういえば三ツ谷が欠点をとっているところを見たことがないなと今更ながらに思う。
三ツ谷とは同じクラスで、適度に話すような割と仲の良い部類になった。
「なに、もしかしてミョウジはやばいの?」
意地の悪い顔をして聞いてくる三ツ谷にツーンとしてそっぽを向く。
三ツ谷は普段優しいくせにたまに意地悪な瞬間がある。悪戯っ子のようなかわいいもので、同年代よりも大人びて見える彼が同い年なんだと気付かされる瞬間だった。こうして三ツ谷と戯れる時間が実は嫌いではなかったりする。むしろ好きな方だ。
そのあともいくつかやりとりをしていると先生が教室に入ってきた。
補講とは名ばかりに、基本的に先生が教室にいるので問題集を解きながら分からないところがあれば質問してくださいという、ほぼ自習のような時間が繰り広げられる。
「お前も補講?」
つい数分前に聞いた質問が、今度は違う声で前の席から聞こえる。ふと顔を上げると、昨年同じクラスだった男子の顔後そこにあった。
「うわ、久々……あんたもヤバいの?」
「俺は去年からやばかっただろ」
先程の三ツ谷とは違う意味の笑いで当然のように返された。
それもそうだと笑えば「笑うな」とチョップが頭に降ってくる。
「痛いなぁ……ほら、もう前向いてさっさとやんなよ!」
へいへい、なんて言いながら大人しく前を向いて問題集を再開したのを確認して、私もまた問題集を解こうと問題集に向き直ったところで視線を感じて、そっと横を見ると三ツ谷と目が合った。目が合ったと思ったら、すいっと視線を逸らされてしまい、三ツ谷の手がサラサラと問題を解き始めた。
何か用があるかと思ったのに何もなさそうなので、私も今度こそと問題集に向き直り解いていった。
時間にして1時間程度。問題集のテスト範囲を粗方終わらせて横を盗み見ると、三ツ谷も問題集を終えたのか教科書の方を読んでいた。
いそいそと片付け始めると、前の席の男子がこちらを振り返った。
「もう帰んの?」
「優秀だから問題集終わった」
軽口を叩いて席から立つ。鞄を持って椅子を仕舞って、先生に会釈をして教室の後ろのドアから出ようとしたところで耳元のドアが少し大きな音を立てて揺れた。
ガタンッという音を立てたドアを見ると、私の目の高さで少し節だった手がドアを掴んでいた。そのまま視線を手から腕へ、腕から顔へと移すと、そこには少しだけ予想していた三ツ谷の顔があった。
「みつ、や……?」
「出ねぇの?」
思いの外優しい表情で聞かれる。でる、と小さく答えてそのまま教室をあとにする。ガラガラと扉を閉めた三ツ谷がドアの小窓から中をじっと見ていたのが気になるが、そのまま歩き始めた。
……不覚にもときめいてしまった。甘い音を立てて鳴る心臓が痛くて気付かないふりをした。
昇降口で上履きからローファーに履き替えたところで三ツ谷が「なぁ、」と声をかけてきた。
「ん?なに?」
三ツ谷の方を向いて首を傾げると、先程とは打って変わって真剣な顔をした三ツ谷と目が合う。
「アイツと仲良いの?」
「あいつ?」
聞いたのはわざとだ。きっと前の席にいた彼のことだと分かっているのに。ずるいかなと思っても、私の勘違いなら恥ずかしいから言わせないでほしいなんてわがまま。
「さっきの、前の席にいたやつ」
言っちゃうんだ。
「まぁ、去年同じクラスだったから……え、なんで?」
この雰囲気でこの質問は狡すぎるだろうか。だけど答えてほしい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、少し口角を上げて三ツ谷は口を開いた。
「好きだから、って言ったら?」
試すようにこちらを見るその優しい瞳が、西日に照らされて目の奥がギラついていることに今更気がついた。
数分前まで君はただの友達だったのに。狡い人だ。
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