オレンジのカケラと透明感
恋人と過ごすクリスマス。
なんとなく幼い頃から憧れる女子は多いんじゃないだろうか。少なくとも私はその響きに憧れを抱いていた。
だがしかし、高校二年生の冬。いざその状況を前にしてみれば、プレゼントやらデートやら何をどうしていいかわからない。
友人たちは皆一様に「ディズニーデート!」だの「彼氏と家でホームパーティー」だのと言っているが、一旦誘い方から教えてほしい。
つまり、恋人こと河田ナホヤとデートの予定すらないのである。
「え、普通にやばくない?」
「……やっぱり?」
放課後友人と某ファストフード店で、ポテトを齧りながら現状の報告をしていれば、さすがにクリスマスを数日後に控えたこの状況でデートの約束すらないのは如何なものか、という結論に至った訳である。
「まぁ、河田兄そういうの興味なさそうだもんねぇ」
「うっ、、やっぱりそう見えるよね……」
私から誘えない要因に、ナホヤがそういう恋人の行事に全く興味がなさそうというところがある。多分誘って断られることは無いのだろうけど、嫌そうな顔をされる確率も非常に高い賭けだ。
体育祭やらは割としっかり参加してる方だと思う。文化祭も。昨年まで暴走族に入っていて、その間にも2、3人彼女の噂を聞いたことはあるものの、どの子も季節ごとの恋人行事のようなものを過ごした話を聞いたことはない。
「元カノさんたちに聞いてみようかな……」
ドリンクのストローを噛んでそう言った私に、友達が飲んでいたドリンクで咽せた。
「絶対やめときな!!」
あんた変なところで度胸あるよね、と呆れた表情の友達に苦笑いで返す。
もう自分ではどうしたらいいのかわからないのだ。
結局その後も誘えず誘われず、クリスマス当日を迎えてしまった。相談に乗ってくれた友達には謝罪のメールを入れると、あんたは悪く無いでしょと返ってきた。いい友達を持ったもんだ。
「ま、仕方ないか」
諦めて朝ごはんを食べようと自室を出て居間に行けば、タイミングよくインターホンが鳴った。
「はい」
『よォ』
受話器型のインターホンに出れば、向こうから聞こえてきたのはナホヤの声だった。
「ナホヤ!?」
『バッカ、声デケェよ!』
慌てて切って玄関のドアを開ければ、そこには意味を成していないヘルメットを首から下げ、バイクにもたれた河田ナホヤが立っていた。
「よォ」
先ほどの再放送が今度は対面で行われた。
「なに、してんの?」
「出かけんぞ」
「え!?今から!?」
「お前いちいち声デケェな…今からだよ」
なんにも用意してないし、なんなら部屋着のままである。
「いいから早く用意してこい。あったケェかっこで来いよ」
「わ、わかった…!」
駆け足で自室に戻ると、タンスの中身を全て出す勢いで服を出して、大急ぎのフィッティング大会開催である。
暖かい格好でと言われた通り、しっかりと着込んでジャンバーを羽織り大急ぎで家を出る。
「お待たせしました…!」
「…っ、おっせぇよ」
「文句言うなら来る前に連絡くれたらよかったじゃん」
そしたら私だってもっとマシな格好したし、なんて。
「はいはい、これ被って後ろ乗れ」
ぽんっと渡されたヘルメット。
「どうやって被るの?」
「はぁ?被ったことねぇの?」
「ある訳ないでしょ!?バイクに乗ったこともないのに!」
そう言えば、僅かに口角を緩めたナホヤ。ヘルメットを被せてもらい、騒ぎながらバイクに跨がらせてもらう。
「しっかり掴まっとけよ」
「ま、ハードル高い…!」
「はァ?あぶねェから掴まってろって!」
引っ付くのがあまりにも恥ずかしすぎて離れれば、ぐいっと腕を引っ張られてナホヤのお腹に腕を回す。
もうどうにでもなれと、ぎゅっとしがみつけば満足そうにしたナホヤがバイクを発進させた。
「さんむっ!!さみィ!!」
連れてこられたのは海だった。寒い寒いと半ギレになるナホヤと、そんなナホヤに爆笑する私という地獄絵図。
私もナホヤも道中の刺すような風の冷たさに耳も鼻も真っ赤。
クリスマスの海とは乙なものだ。そこで気になるのはクリスマスプレゼントだ。
「ねぇ!」
「なんだよ!」
「プレゼント何がいい?」
私の問いに、沈黙するナホヤ。
「なんも思いつかなかったの、クリスマスプレゼント」
「俺もなんもやってねぇだろ」
「連れてきてくれたじゃん、海」
きっとナホヤもどうしていいか分からなかったんだろう。だけど彼なりに考えての行動だったのかな、とか。自惚かもしれないが。
じっとナホヤを見つめて答えを待つと、ナホヤの口がゆっくりと開かれた。
「お前」
「私?私が何?」
「ほしいもん。お前だって言ってんだよ、タコ」
「誰がタコだ!!」
いや、ちょっとまて。今めちゃくちゃ恥ずかしいことを言われた気がする。
「私が、ほしいの…?」
「…だからそう言ってんだろ!」
「…わかった!じゃあ全部あげる!全部全部ぜーんぶ!私は河田ナホヤのもん!」
両手を広げて大きな海に向かってそう宣言すれば、恥ずかしさも幾分か晴れた。
くるりとナホヤの方に向き直れば、すんっと鼻をひとつすすったナホヤと目が合う。
「言ったからな!後悔すんなよ!」
波の音に負けないように声を張り上げたナホヤ。
「ナホヤも他の女に手を出したら許さないから」
私の言葉に、ザクザクと砂浜で足を取られないように歩いてくるナホヤ。
「一生お前にしか手ェ出さねぇから覚悟しろや」
笑顔で口の悪いサンタさんから貰った初めてのキスは、海風で冷えて少しかさついていた。
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