甘やかな傷口
「聞いてよ三ツ谷!」
がたがたと音を立てながら前の席に座る女子。今日もまたいつもの話だろう。
「なんだよ」
分かってて聞く俺も相当に馬鹿なんだろう。
「今日ね、」
好きな女の口から聞く、そいつの好きな奴の話なんて何が楽しいんだろうな。自問して自答はないまま、ふっと鼻で笑う。
「なによ〜、何かおかしかった?」
自分が笑われたと思ったのか、不服そうに頬を膨らます仕草に不覚にも可愛いと思ってしまった。
「別に、こっちの問題」
そう?と納得したのか、また好きなやつの話をし始める。楽しげに話し続ける様子を見ていると、その想いの先がどうして俺じゃないのかと僅かな惨めさが湧き上がる。
「三ツ谷?どうかした?」
ぼんやりとしていたのか、心配したように顔を覗き込んでくる。その近さに思わず身をぐっと引いた。
「な、んでもねェ…」
「そう…?話聞いてた?」
「あー…なんの話してたっけ?」
「も〜!いつか三ツ谷の作ったドレスが着たいねって話!」
「……その好きなやつとの結婚式で?」
意地悪く聞けば、瞬間ぽっと頬を染める彼女に、微かに苛立ちを覚えた。あぁ、こいつの目に俺は少しも映ってねぇんだなと、いやでも思い知らされる。
「俺は作りたくねぇな」
そう言えば、口をへの字に曲げて不機嫌を隠そうともしないその様子に、素直で馬鹿で、本当に可愛い奴だと思った。
「なんで…」
俺の拒否に少し傷ついたように聞いてくる。
「んー」
言葉を濁せば更に不安そうな表情を見せるそいつが、さすがに可哀想に見えてしまって結局折れるのは俺だ。
「俺以外の隣に立つお前にドレスは作ってやりたくねぇ」
俺の言葉を聞いて不思議そうな顔をしていたのが、段々と意味を理解して頬を染めアタフタする。
これくらいの意地悪は許されるだろ。
誰もいなくなって教室で、オレンジの陽を背に立ち上がる。
「ほら、帰んぞ〜」
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