透き通る想いはきっと空を抜けて
一目惚れだった。
タカちゃんのクラスメイトだという彼女は、夜中のコンビニに一人で訪れていた。
「お前こんな時間に女一人は危ねぇだろ」
「大丈夫だよ!三ツ谷たちだってバイク危ないよ」
コンビニの前にバイクを停めて屯っている俺たちに戯けるように言う彼女の、いたずらっ子のような表情が美しいと思った。
じっと見つめていると視線に気付いた彼女がこちらを振り返り、ん?と首を傾げた。
「三ツ谷の友達?」
こんばんは、と頭を下げた彼女に固まると、あーっと頭を掻いたタカちゃん。
「そう、俺のダチ。こいつ、女得意じゃねぇんだ。無視してるとかじゃないから」
申し訳なさそうに謝るタカちゃんに、せめて何かしなければと、会釈だけはした。そんな俺にも嫌な顔ひとつせず、会釈を返してくれるあたり本当にいい人なんだと思う。
「名前は?」
鈴が鳴ったような声が夜に響いた。ぴしりと体が硬直する。口を開くことすらできない俺を見かねたタカちゃんが答えてくれる。
「八戒。柴八戒」
「八戒くんか、よろしくね。ナマエです」
ふっと口元を笑ませて、そのままコンビニへと吸い込まれていった。
タカちゃんが「待つか」と、全てを見透かしたようにこちらを見る。
何分かタカちゃんと外で話していると、買い物を終えたナマエさんが外へ出てきた。
「やっぱりいた」
「おー、送ってくに決まってんだろ」
「いいのに。じゃあはい。お礼」
八戒くんも、と暖かい肉まんを手渡される。
「…あり、がとう」
お礼を言えば、少し驚いたように目を見開き、にっこりと笑んだ。先ほどの口元を笑ませるのとはまた違った笑顔だった。
「これ食ったら送ってってやれよ、八戒」
「え!?」
「俺ルナマナの面倒あるし」
バクッと大きな口で肉まんにかぶりついたタカちゃんは、至極当たり前のように言った。
「……わかった」
「いいよ?私一人で帰れるよ?」
「だめ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「女の子、の…夜の一人歩きは危ないし…」
もごもごと尻すぼみに消えていく言葉。ありがとうと笑うナマエさんに、耳が熱くなるのがわかった。
肉まんを食べ終わり、タカちゃんはバイクに跨り家へと向かって走っていった。
「の、のりますか?」
「ううん、歩いて帰りたいな」
ナマエさんの言葉に、二人ゆっくりと夜道に一歩踏み出した。
ナマエさんの家までの道中、二人の間に言葉なはかった。それも居心地が悪くなく、寧ろ心地良い時間が流れる。
夜道にはただ二人の足音と白い息だけが広がった。
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