合意の吐息
どうしてこうなってしまったのか。きっと三ツ谷くんを怒らせたからだ。
誰が?私が。
辛うじて座ってはいるものの、完全に後ろに下げた肘でなんとか身体を支えている私と、覆いかぶさるようにその顔に不機嫌を滲ませている三ツ谷くん。
事の発端は、私の発言だったんだろう。
「三ツ谷くんって性欲とかないよね」
悲観するでも怒るわけでもなく、努めて明るくそう言った。し、実際に顔は笑っていただろう。声も明るかったはずだ。
しかし、その先に私を待っていたのは、普段優しく笑う彼が笑顔を消し、静かに落とされた「へぇ」という言葉だった。
付き合って一年。恋人の数だけ形も進むペースもあるのはわかっている。それでも高校生という多感な時期。友人たちはどんどんと先へ進んでいき、私がまだだと分かれば、一種の憐れみのような視線と驚きというお決まりの反応。困っているわけではないけど、焦っていないわけでもない。
高校生のお付き合いで一年は、おそらく短い方ではない。手も繋ぐしキスもする。それでもそれ以上先には進まない。
なにがダメなのか。私に色気がないとかも考えた。しかし考えても自分と周りの子たちに大きな差はないように思うし、そうなればもう三ツ谷くんが性欲がないんだとしか思うしかない。
まぁ、その結果が今なのだけれど。
「俺って性欲ないって思われてんの?」
口角を少し上げ、眉間の皺を解いて首を傾げる三ツ谷くん。目は笑っていませんが。
ゆるりと垂れた目尻、筋肉をさほど使っていないように上げる口角。
三ツ谷くんが覆いかぶさる形で床に追いやられそうになっている私の体は、まだなんとか持ち堪えている。
「いや、だってほら…キスまでしかしたことないし」
私の言葉にゆるりと首を傾げる三ツ谷くん。
「キス?」
「キス」
「…あぁ」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、一瞬の間に顔が接近しそのまま唇がくっついた。ぴとりと一瞬くっついて離れたそれに、三ツ谷くんは楽しげに笑みを讃えたままだ。
「これのことか」
「そう、だけど…」
だったらなんだというのだ。
依然唇を少し離した距離にいる顔に、息をすることすら気遣う。と、また唇が触れ合う。そのまま三ツ谷くんの頭がさらに少し傾き、お互いの隙間を埋めるように唇が重なる。薄く三ツ谷くんの口が開き、口先で私の唇を食べるように食んだ。あむあむと数回それを繰り返してぴたりと止まった。
もう既に何が起こっているのかわからない。私が知っているキスはキスじゃなかったということか?
混乱する頭が、先程からまともに吸えていない酸素も合わさってさらにクラクラとしてきた。
ぴたりと合わさったままの唇が一瞬離れたと思ったら、べろりと何かが唇を這った。
「ぅえ…!?」
驚き言葉を発すると同時に口を開けば、口内に何かが滑り込んできた。そのまま先程までよりも深く重なった唇に、口内を撫でるソレが三ツ谷くんの舌であると理解するのに時間は掛からなかった。
体を支えていた腕はいつの間にやら仕事を放棄して、背中は床へと押しつけられている。その間にも口内で必死に逃げる私の舌を追うように絡められる三ツ谷くんの舌。
止まらない。もうどれだけの時間こうしているのか分からない。
苦しくなって、なんとか離そうと肩を押してもびくともしない。ただただ口内の音が頭蓋骨の中で響く。
口内で遊んでいた三ツ谷くんの舌が、満足したように私の上唇を舐めて最後にそこを甘く噛んで離れた。
「俺の思ってたキスってこれだけど。ここまでするとヤバくなるからしなかっただけ」
何がやばいのか。ふわふわと回らない頭で思考していれば、力なくカーペットに寝ていた手が取られ熱に当てられた。手が持っていかれた先を見れば、ファスナーの内側で膨らみ始めているもの。
カッ、と音がしそうなほど瞬時に顔が真っ赤に染まった。
「で?誰が性欲ないって?」
どちらの唾液なのか分からないもので濡れた唇に、妖しく甘い笑みを浮かばせた。
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