山桜は君に微笑んだ
青宗と付き合って数年。
一度は集会に行ってみたいとお願いをするも惨敗。ただ特服を着て並ぶ、不良の時の青宗が見たいだけなのに。
今日もまた青宗の集会について行きたいとお願いをし、一緒にいた花垣くんに「いいじゃんおいでよ」と連れ来てもらった神社。
東京卍會の集会はいつもここでやっているらしかった。
私の他にも、隊員たちの彼女らしき女の子たちもいる。花垣くんが私を預けたのは、彼の彼女のヒナちゃんだった。
ヒナちゃんはとても優しく、初めてだとは思えないくらいに盛り上がった。花垣くんのことを話すヒナちゃんは乙女そのもので、非常に可愛らしい。
「アイツ可愛いな」
不意に耳に届いたそんな声。ふと声のした方を見れば、数名で固まっている隊員がこちらを見ていた。
残念でした。ヒナちゃんには花垣くんっていう素敵な彼氏がいるんです。
心の中でべーっと舌を出してまたヒナちゃんの方へ向き直り最近のデートを聞くことに専念した。
ぽんぽんと肩を叩かれる。振り返れば、先ほどこちらを見ていた隊員たちがそこにいた。
「はながきの嫁の友達?」
「は…?え、」
「可愛いじゃん、俺らの中だったら誰がいい?」
誰も嫌ですけど。
思ったことは口には出ない。
青宗と付き合っているから誤解されがちだが、元々不良に慣れているわけではない。ただ青宗だから付き合っているのだ。要は、この状況は私に手に汗握らせるには十分すぎるピンチだ。
「ちょっと、やめてください。この子は乾さんの彼女です」
勇ましく私と男たちの間に割って入り守ってくれたのは、ヒナちゃんだった。見た目によらず逞しくかっこいい。惚れてしまう。
「乾ィ?…あぁ、一番隊傘下の黒龍のか」
「俺がなんだよ」
いつからそこにいたのか、青宗が男たちの後ろから現れた。
「青宗!」
ヒナちゃんがそっと私の前から退き、入れ替わるように青宗が私の前に立ち私を見下ろす。数秒私を見つめ、くるりと男たちの方に向き直った。
「こいつになんかしたのか?」
普段より少し低めの声。
以前青宗がぽろりと零した、自分達は“黒龍”として東卍の一番隊傘下についた。名前としては黒龍を残したままだからよく思っていない奴もいる。そのことが、今の青宗の声音に、その言葉を思い出した。
自分がよく思われないことは、私への危害にも繋がる。だからこそ、今まで集会にも連れてこなかったんだろう。
少しの申し訳なさと、想ってくれているありがたさが胸に広がった。
「なんもしてねーよ。ただ可愛いなって言ってただけだ」
なぁ?と残りの隊員を見る。皆一様に首を縦に振り、青宗がこちらを見た。まぁ、嘘ではないのでいいかと私も首を縦に振った。
納得した素振りを見せた青宗が、またじっと私を見つめる。そして再度男たちに向き直った。
「可愛くはねェだろ」
青宗の口から飛び出した言葉。金縛りにあったように身体が動かなくなった。
「…!?ちょっと、乾さん!?」
私が何か言うよりも先に、ヒナちゃんが静止に入った。青宗の言葉に、男たちもさすがに驚き目を見開いている。
「事実だろ」
ヒナちゃんを一瞥すると、青宗の声音は普段と何も変わらない音を響かせた。至極当然、唐揚げが美味しいと言うのと変わらない音だ。
そうか、青宗は私を可愛いと思っていなかったのか。
ぐちり、と私の鳩尾にサバイバルナイフが差し込まれるような感覚がした。ヒナちゃんが私を庇おうとそのナイフを抜こうとすれども、その刃についたノコギリ刃が引っかかる。刺せども抜けども地獄だ。
人は気が落ちると俯いてしまうというのは真理かもしれない。いつの間にか私は青宗の背中ではなく、地面を見つめていた。
「……綺麗な青宗にはわかんないよ」
ぽつりと、俯いたまま地面に言葉を落とした。
「あ?可愛くねぇのは事実だろうが。顔は普通だろ」
「乾さん!」
唇を噛み締め、いつからか視界を揺らす涙が落ちないように耐える。ヒナちゃんが抗議の声を上げるが、青宗はものともしない。それどころか、面倒臭さすら含んだ声音であしらう。
「こいつはうまそうに飯食ったり、散歩中の犬見つける度に撫でに行ったり、なんもないとこで躓いたり…料理してる時たまに鼻歌歌ってんのがいいんだろ。俺を見つけて嬉しそうに笑う時くらいだろ、可愛いのなんか」
そんなんも知らねぇお前らが見てる顔面の造形は普通だ。
さらりと言ってのけた言葉。その音は、少しの苛立ちを含んでいた。私の視界を遮っていた涙はとうにひっこんでどこかに。
「せ、しゅ…」
ヒナちゃんがキョトンとした後、ニヤニヤと笑い出した。
「ヒューっ」
ひとつキザな音がした。気づけば周りは隊員たちに囲まれていて、皆一様に青宗を揶揄うような笑みを浮かべていた。瞬時にわいわいと囲まれもみくちゃにされる青宗。
遅れて熱くなってきた頬に手を添えて隠すと、ヒナちゃんに「愛されてるねぇ」と小突かれた。
「うるせぇ!」
夜空に響いた青宗の怒号に、お前が一番うっせーぞと辮髪の人が笑っていた。
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