学校とはなんぞや。一定の教材を用いて組織的、計画的、また継続的に教育を行う施設である。要するに勉強。そして人との関わり方なんかを身を以て学んでいく場だろう。基本的に授業中は私語厳禁。なのだが、私の耳はもう何回目か分からない程この場に似つかわしくない声を拾っている。

「ーーぁぁぁあああああああ!!!!」

ぐちゃ

まったくもって遺憾である。
当然聞こえてるであろう花宮君に視線をやればやはり滲み出る不機嫌オーラ。まぁ今は猫被り真っ最中なので顔は至って普通だけども。また外から叫び声と落下した音が聞こえると、それに合わせて花宮君の眉が少し寄った。これはこれで面白いかもしれない。

「じゃあこの問題を…花宮」
「はい」

先生に指名された花宮君は黒板の前に行くと、サラサラと答えを書いていった。迷いなく動くその手は最早答えを知っていたのではないかと思わせるほど躊躇いがない。

「よし、正解だ。流石花宮だな」
「いえ、そんなことはないですよ」

はにかむように少し笑いながら席へ戻るために踵を返す。きっと心の中ではこんなの解けて当たり前だろバァカとでも思っているのだろう。花宮君が振り向き一方踏み出した瞬間、また窓の向こうから声がした。あーこれは確実に視界に入ったね。でもそこは流石花宮君、そんなの*にも出さないでさっさと席へ戻っていった。
今頃古橋君は声にビクビクしていることだろう。幸い隣のクラスなので目視してしまうことはないだろうが声はバッチリ聞こえているはずだ。瀬戸君はどうせ寝てるだろうから関係ないし、山崎君と原君が遠目のクラスで良かった良かった。

「おい」
「あれ、花宮君?」

霊媒体質の彼らに思いを馳せていると、耳元でお呼びがかかった。花宮君が惜しみなく眉を寄せて此方をみている。呼んでんのにシカト決め込みやがってと呟くと、前屈みにしていた上半身を起こす。態勢が直る頃にはにっこり微笑む優等生の花宮真君の出来上がり。どうやら授業はいつの間にか終わっていたようだ。

「ちょっといいかな?」



所変わっていつもの屋上。さっきの「ちょっといいかな?」はお願いじゃない、脅迫だと思います。何で屋上かって、さっきの授業が4限目だったので今はお昼休憩なのです。あ、今日は花宮君も一緒に食べるんだね。

「さっきのあれ、何なんだよ」
「何って、飛び降りてるんでしょ?」
「そんなことは分かってる、何で何度も何度も騒いでんだってことだ」

気が散ってしょうがねぇと悪態をつく。何度も何度もというのは回数だけの話じゃない。毎週木曜日の4限目が始まって20分くらいすると飛び降り始めるのだ。こういうのはだいたい決まっているのだけどと説明をしようとしたところで屋上の扉が開いた。

「お待た〜!古橋が行きたくないって駄々こねるからさぁ、そんなの面白くて無理矢理連れて来るよね」
「やめろ離せ、今ならまだ間に合うきっと間に合うだからこの手を今すぐに離せ」
「さっきからこの調子なんだよー、まじウケる!」

原君に引きずられるように連れられてきた古橋君の顔色はとても悪かった。まさに顔面蒼白。毎回木曜日は逃走してたみたいだけどとうとう捕まっちゃったんだね。でもそりゃあんな断末魔を聞いた後にその発生源がいるかもしれない所に来たくはないよね。依然原君から逃れようと暴れている古橋君に朗報を届けてあげようと思う。

「大丈夫だよ!」
「….大丈夫とは具体的に何がどう大丈夫なんだ?」
「屋上にはいないから」

相変わらずハイライトのない目でじっとりと此方を見る古橋君。彼女が繰り返し飛び降りているのは一つ下の階にある音楽室からだからと伝えれば、とりあえず落ち着いてくれたようだ。

「それで、何で何度も繰り返してんだよ」

いつもの場所に座り込み各々お昼ご飯を食べ進める。花宮君はやっと話の続きが出来ると一息吐き問いかけてきた。

「うーん、多分気づいてないんだよ、自分が死んじゃったことに」
「こんな高さから落ちて死んでないと思ってるのか!?」

山崎君が驚いたように声をあげる。まぁね、本人も死ぬつもりで飛び降りたなら死んでいる可能性を考えられると思うんだけど、彼女の場合はちょっと違う。

「即死じゃなかったの」
「…まじかよ」
「落ちて、まだ意識があって、まだ死ねてないって気づいた。そしてその後亡くなったんじゃないかな。たがらまだ死ねてないって思って繰り返してるのかも」

飛び降りて即死出来なかったって痛いだろうなぁ。いや痛いとかの次元じゃないのかもしれないけど、私はそれを経験するつもりも予定もないので分かってあげることは出来ないのだ。

「お前やけに詳しいな」
「うん、一回目があったからね」
「え、それっていつ?」
「飛び降りてきた時」

窓際って陽の光が差してポカポカするしそよそよ風は入ってくるし、そういう面では有難いんだけどね。たまたま外見てた時に視界に突然入ってくるんだもん驚いちゃう。そう言うと山崎君がひぃい!とか細い声をあげた。そんな声出るんだね。

「それで平然としてる苗字が一番怖ぇよ」
「ん?ちょっと待て、音楽室って言ったか?」
「うん」
「あ!そういえば次音楽じゃん!ついてんね古橋w」
「俺は帰る、そしてやっぱり一緒に住もう苗字」
「あぁ?部活あんだろ何言ってんだ」
「今すぐ帰らないと死んでしまう病が再発したすまない花宮じゃあな」
「おい待て康次郎!」

逃げ出そうとした古橋君を花宮君が羽交い締めにしている。何だかんだ言って部活をやる花宮君は真面目だなぁ。ていうか時間外は音楽室にもいないんだけど、面白いから黙っておこうと思います。

(おい、ところでやっぱり住もうって何だ?)
(古橋が名前のこと拉致ろうとしてんの!)
(……………)