ルンバ大脱走劇!

063:劇




 交流祭も盛り上がりを見せる昼過ぎ。左腕につけた『風紀』の二文字が歩くたびに揺れた。
 掲示板で見つけた風紀部のチラシに勢いで加入してから数ヶ月。普段の生活の中で特別目立った行動はないがこの交流祭はどことなく違う。参加を決めた部員たちは腕章をつけ、交流祭を回りながらも学園の風紀を守るための巡回をする。
 こんな経験は初めてだった。真面目な仕事だとわかっていながら、とても楽しみで仕方なくなる。鼻歌も漏れそうなまま生徒でごった返す中庭を歩いた。そんな時。
「逃げたぞ!」
「追え!」
 突然怒号が飛ぶ。生徒の波がざわつき、自然と一つの道ができた。何が現れるのかと目を凝らすと、それは足元を動き回っている。まるで生き物のように。
「……ヒイラギ先輩」
 目の前を謎の物体が通り過ぎ、その後ろを追いかける生徒たちがドタバタと走っていく。その群れの中に見知った顔を見つけ、横並びにはしりながら声をかけた。
「バーナードか。巡回、お疲れ」
「お疲れ様です。ところでこの騒ぎは一体」
 ヒイラギ先輩はどことなく疲れた表情を見せてため息をついた。
「生徒の出した屋台から商品が逃げた」
「逃げた?」
「ああ。さっき目の前を通っていったから分かるだろう。ルンバと呼ばれる……まぁ、掃除する機械だな」
 なるほど、聞いたことがある。基本は円形の機械で床を這いずり回りゴミやチリを回収していくものだ。その便利さゆえ、愛用している生徒も多いと聞くがまさか逃げるなんて。
「機械が逃げるのですか」
「現実がそうだからそうらしい。軽い暴走状態にあるようで、生徒も襲うそうだ」
「それは……風紀部として見過ごせませんね」
 コクリと頷いた真面目なヒイラギ先輩を横目に、前方で逃げ続けるルンバの数を数えた。目視できる範囲では全部で四個。途中、校舎内や別の建物まで逃げていった分はもう他の誰かが捕まえるだろう。
 静かに四つのルンバのデータをスキャンする。機械は正常に動けど、どこかの回路が暴走しているようだ。これは物理行使で動きを止め、無理矢理修理させるしかない。
「先輩、この辺りで決着を」
「そうだな。準備はいいか?」
 軽量化した斧を背中から取り出す。腕を構え、自身の足に軽く無属性魔法をかけた。
「参ります」
「行こう!」
 無属性魔法により自身の体重を軽くして走る。目標到達まで残り十秒。みるみるうちに近づく一つ目のルンバめがけて跳躍する。三秒、二、一。
「先輩!」
 斧で掬うようにルンバを後ろへ飛ばす。周りの生徒はただ事ではないと判断したのか遠巻きに見ていた。的確な軌道を持ってヒイラギ先輩めがけて飛ぶ。横目でキャッチしたのを確認すると、次の目標へ走り出した。
「修理できるらしいからある程度壊しても大丈夫だぞ!」
「了解」
 先ほどは壊さないよう、微調整をかける手間がかかった。しなくていいならこれほど楽なことはない。前方に二つ、ルンバが横並びで走っている。無属性魔法を唱え、さらに斧を軽くした。目標到達。横からスライスするように地面の土ごとルンバ二体をえぐりとる。上空に高らかと上がってルンバに無属性魔法をかけ、浮遊させて先輩の方へ送った。
「捕まえた!」
「ありがとうございます」
 最後の一体を見据える。目に優しくないレインボーカラーをした丸い物体が、妙な音楽を流しながら地面を這っていた。他の個体に比べて動きが機敏なのかなかなか追いつかない。面倒になって何度か斧を振り下ろし、叩き割って動きを止めようとしたがそれもすんでのところで交わされてしまう。
「行く手を塞いでください」
「尽力しよう」
 周囲に森があることを利用してヒイラギ先輩の木属性魔法が飛ぶ。もはやここまでくると生徒の姿はほとんどない。ルンバの行く手を阻む木の壁ができ、ルンバの動きが鈍った。
「ヤァッ」
 跳躍、のち斧の切っ先がルンバを捉える。メキョ、という嫌な音を立ててルンバは斧の下で動きを止めた。
「……制圧成功です」
「……これは……治るのだろうか……」
 すっかり形を変え、いびつな音楽を流す虹色のルンバを見つめながら先輩が言う。
「修理可能ではないのですか?」
「限度があると思うが」
「……誠意を持って謝罪しましょう」
 斧を背中に収納し、変形したルンバを手に取る。未だヒイラギ先輩の捕獲袋の中で暴れる三つのルンバと一緒に屋台へと向かった。




ヒイラギシュウさん(@ponrete)お借りしました。
店舗:tataROOMBA様
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