交流祭。人でごった返す廊下を早足で歩きながら掲示板を目指した。今日のアレは何時からだったか、忘れてしまったのだ。
「っと、あったあった」
掲示板の前までなんとか滑りこむと目的のチラシを見つけ出す。そこには”修練棟出し物イベント”の文字が踊っていた。10時の部という文字にげ、と声が漏れる。現在、十時五分前。今日のこのイベントを楽しみにしていたため、無理矢理早起きをしたが時間がギリギリだ。
「あれ、クオリアちゃん〜?」
やばい、今すぐ行かないと! と駆け出そうとした時、振り返るとパルヴィがぼんやりと立っている。ピーンときてパルヴィの腕を咄嗟に掴んだ。
「えっ」
「ちょっと一緒にこい」
「えっ……え!?」
今度こそ修練棟に向けて駆け出した。パルヴィは訳もわからぬまま付いてくる。途中で、パルヴィのスピードが落ちたため担いだ。
*
「ええ……なんでわたしも?」
「お前の強化、相性いいんだよな〜。つーわけで頼むわ。参加してアッカが勝ったら景品もあるしよ」
修練棟に滑り込み息を整えたところで彼女は困惑の声をあげた。が、さすがはパルヴィ。やっぱり楽しそうなことには目がないのだ。まぁいいかと納得し、すぐに強化をかけてくれる。
「キタキタ、これだよ」
「にしてもすごい人数だね……」
パルヴィはキョロキョロと周りを見渡していた。
おそらく修練棟では一番広いフィールドを使っているはずだが、それでも埋めつくさんばかりの人数だ。アッカ待機場所とクロー待機場所で分かれている。
「全然戦えないけど大丈夫かなあ」
「まぁ安心しろよ。いざって時は守ってやるし」
……まぁわかんねえけど、とは言わなかった。クロー生の中でも戦いたかったやつらは山ほどいる。
ふとその中に見覚えのある顔を見つけた。レイ。あいつには負けられない。パルヴィも気づいたのか、レイに向かって手を振っている。
「お、レイくんだ〜」
「またあいつやってやろうぜ!」
「戦闘じゃ勝てないよ?」
「定期的に頼むわ、強化」
パルヴィの顔があっ、と声を出さずに変わる。その視線の先を見ると不招豊哉の姿があった。
「あっち行くか?」
「んー? 別に大丈夫だよ」
自分なりに気を使ったつもりなのだが、あまり効果はなかったようだ。そうこうしているうちに教師のうちの一人、ハイル=ハイルングが号令を取る。
「さて、もう少しで時間だからね。あと三十秒で開始のゴングが鳴るよ」
ざわつきが少し収まりどこか不思議な緊迫感に包まれる。前衛に行くタイプの生徒たちがクローとアッカの境目まで出て行くのに対し、俺はその場に残っていた。主に非戦闘員、強化属性や木属性の回復が得意な生徒たちが背後を壁に近づけて防御を固めている範囲だ。
「クオリアちゃん、前行かないの?」
「あ? 行かねえよ。守るっつったろ。無理矢理連れてきたし」
「ありがとう……でもクオリアちゃんなら気にせず前でてくと思ってた」
頭の中で数えていたカウントダウンがやがて開始に近づいて行く。あと五秒もない。パルヴィはやたらそわそわしながら俺の返答を待っていた。
次の瞬間、開始のゴングが鳴り響く。ひどい爆音だが、反応の素早い生徒は動き初めていた。
「後で前行くぜ。でもよ、世の中にはセコイ奴らがいるんだよ」
予想通り、奴の魔法は一直線にこちらを狙っている。クロー生もアッカ生も同様に、後方で固まっている非戦闘員を直接狙う戦法を使っていた。多数の魔法攻撃や翼を持つ者たちの物理攻撃が迫る。
「こいつら片付けるぜ、パルヴィ!」
強化のおかげで身軽になった体を飛び上がらせる。迫る魔法攻撃に一発、鉄パイプをフルスイングした。
*
「チッ、クソが!」
周りの生徒も巻き込みながらこちらへ津波のように押し寄せる土の波に飲まれる。強化されたこともあり、鉄パイプに魔力を仕込み土を切り裂いた。レイは相変わらず遠くでブツブツとつぶやいている。苛立ちを感じながら走り出した。
目の端に、一つ上の先輩であるアルフェッカ・エルフォロイドの巨体が映った。一度彼の方へと走る。
「アルフ! 一本くれ!」
こちらをゆっくり振り向いたアルフは体の中からずる、と一本の鉄の棒を取り出した。彼の体は金属でできているゆえ、その体内から武器を精製できる。時折討伐や共闘ではお世話になっていた。
「サンキューな!」
投げて寄越されたそれを掴み、お礼を言うとレイへ向きなおる。向き直った、はずだった。先ほどまでいたはずのレイはそこからいなくなっている。視線を巡らせる。
「……パルヴィ!」
レイはいつの間に移動していたのか、だいぶパルヴィと距離を詰めていた。迂闊だった。あいつは動けない、と踏んでいたのだ。先ほどまで一緒にいたはずのパルヴィをその場に残して動いてしまった。
駆け出す。レイの口元が何やら動いている。周辺の土が盛り上がり、宙に浮いて硬さを増していく。……間に合わない!
「ケツバットの恨みだ」
「ちょっと待って!? クオリアちゃーん!」
限界まで足を動かしてもあのスピードでは動かない。まずい、どうすればいい、どうすれば……!
「
レイが浮かせた土の塊をパルヴィめがけて集約させる。パルヴィが怪我をするだけでなく、クローに点数が入ってしまうのだ。もっと言うと最初にした約束を守れない。どんどん土の塊はパルヴィへ迫る。あいつのスピードじゃ避けられない!
刹那、何かがパルヴィを覆った。
「シールド」
ガガガガガ、とすごい音がしてパルヴィの直前で土の塊は全て地面に落ちた。あの揺れる白い髪の毛は。
「アル!」
「出すぎた真似をして申し訳ありません。クローに点数を入れさせるわけにはいきませんから」
アルミリア・バーナード。アンドロイドの彼女は自身の体から薄い魔力の障壁を作り出し、見事にレイの攻撃を防いでみせた。悔しそうな顔をしたやつの顔を拝みながらようやく二人の元へたどり着く。
「今ケツバットの恨みって言ったよ!」
あわわわ、と焦るパルヴィを落ち着かせながらレイを見やった。おそらく、今俺たちの中で一番弱いパルヴィを集中的に攻撃するだろう。このすきに他の戦線に送り込んだほうがいい。俺は一度こいつに喧嘩を売ったら身を引きたくない。
フィールド内に視線を巡らせる。得意の金色の鞭を使役しながら少しずつ一人で敵を奇襲している姿を見つけた。
「アル、一回俺に強化いれろ」
「かしこまりました。データスキャン、開始します」
瞬時に腕力が高まるのがわかる。パルヴィ程度なら片手で持ち上げられるほどになったようだ。肩を何度か回し、パルヴィヒョイっと担いだ。
「え? クオリアちゃん?」
「まぁ、いつものやつだ」
「いつも思うけど雑だよね?」
「時間ねぇからさ。オージサマ? が受け止めてくれるよきっと」
「ちょっと待って本当に。せめて声かけてから……」
まぁまぁ、とパルヴィをなだめているとレイの詠唱が聞こえた。なかなかセコイやつだ。この隙も見逃さないらしい。
「
「アル、ちょっとの間防御たのむぜ」
「かしこまりました」
パルヴィの腰をがっちりと掴む。もう三度目くらいだから慣れてしまったのか、できるかぎり体を縮こまらせたパルヴィが腕の中で硬くなっていた。頭の上まで持ち上げ、大きく振りかぶった。心の中でせーの、と呟く。
「豊哉ァ! 頼んだわ!」
「ひええええ」
どうやら俺の声はちゃんと豊哉まで届いたようで、こちらを見た豊哉の表情が驚きに変わる。スローモーションのようにパルヴィの体が戦闘中の生徒たちの上空を通り過ぎていった。
数秒後、なんとか豊哉が駆け寄って受け止め……改め、クッションになったおかげで無事だったようだ。豊哉はわからないが。
「クオリア。そろそろ一人では厳しいです」
「おう、悪かったな。アッカの反撃と行こうぜ?」
指をポキポキと鳴らした後、腰に下げていた二本の鉄パイプを構える。目の前に迫る土の塊に向けてそれを突き刺した。