粉塵

023:殲




「あのさぁ……」
 苛立ちが募る。目の前でポワポワしているやつも、喋らない……喋れない奴も、ギャーギャーうるさい奴も。
 修練棟イベント16時の部。時間が空いたから寄ってみよう、くらいのノリで参加してしまったのがいけない。出るからには勝ちたい、それが僕のモットーだ。なのに目の前の奴らはなんだ。ていうか、もうすぐ始まるんだけど!
「アッカやばいのいるよ!? ねえ、なんでそんなほんわかしてんの!?」
「集中しろ!」
 情けないことを喚くミロオの指差す先には、十時の部で吹っ飛ばしたアッカの男の子が見える。その横には彼の……友人か、師匠か、何かだろうか。異様な雰囲気を醸し出した二人組がすでに武器を構えてこちらをにらみあげていた。
 ああいう奴らはぶっちゃけ誰が敵でも気にしない。目の前にいるやつを斬る。殴る。真正面からぶつかっては勝ち目はないかもしれない。実際、十時の部でも僕は意表を突かなきゃ成功しなかった。
「あ、始まりましたね」
「ほら、もうー! 準備できてんの……っ!?」
 開始の合図が鳴り響いた、その数秒後。ミロオが僕たちの前に立った。それだけ、わかった。
 ひどい爆発音、いや、似ているだけでそれは鈍いものだった。金属と金属のぶつかる音。ミロオがとっさに出した純金の盾とアッカ二人の刃物が衝突する。呆気にとられている間も無く赤と黒の二人が動いた。
「ミロオ、そのままガードしてて!」
「え〜、あんまり長く持たないかもよ」
「持たせろ!」
 鬼火を出現させる。ふわふわと周囲を浮かんだ小さな鬼火たちを弾丸のようにして飛ばした。避ける二人のあとを追うように動かし、制服の端を焦がす。できれば皮膚に、少しでも火傷状態を付与できれば。
 アッカ生の二人は火を気にとめることなくこちらへ向かってくる。ミロオの盾は先ほどから動いていない。どう考えてもあれは避ける、じゃあどうする?
「……ちい!」
 言葉と同時に横をすり抜けたちいが袖口からワイヤーを無数に出現させた。その場にいた四人を取り囲むようにワイヤーが伸びる。ミロオを超えたアッカ生の二人の攻撃をなんとか受け止め、弾き飛ばした。
「ありがと」
 ちいはにこ、と笑う。喋れないというのはなんとも……複雑なものだ。感情は表情を見ればわかるが、実際に思ってることは表情だけじゃわからない。
 ミロオは悲鳴をあげつつ逃げ帰ってきたが構っている暇もない。第二波、いや、第三波や第四波まで奴らの攻撃は計算されている。しかもひどく野生的な方法で。
「ハイド」
「はい」
 ちいが彼らの攻撃を防いでくれている間、簡潔に説明した。ハイドの属性は水。僕は火。そこから導き出される答えはただ一つ。彼も同じことを考えていたようで、すでに一つ材料はできていた。
「ミロオ、出番」
「え、何。俺言っとくけど戦えないからな! むしろ守れよ」
「そんなこと見てりゃわかるっつの。さっきのでかい盾、僕が今! って叫んだら最大の防御力で張って」
 渋々と言った感じで頷いたやつを尻目に僕も準備をしていく。手の中に超高温度の炎の塊……鬼火の真髄とも言える、青い炎を作り出していく。その火が透けるほどになるまで温度を上げていく。じわじわと熱が外に放り出され、汗まで掻いてきた。
 握りこぶしふたつぶんほどの大きさにした高温の物体を空中浮遊させる。魔力を異常なほど使用するこれは、長時間保っていられるものではない。
「ハイド、スリーカウントで行くよ」
「わかりました。準備はできてます」
 ハイドの作り出した水の塊も同様に浮かんだ。
「三」
 火と水という、一見相反するように見える魔法属性も化学とかいうものの力を使えば膨大な力になる。水の形態は三種類。液体、個体、そして気体。
「二」
 液体の水は熱せられると水蒸気になる。その時、その水の体積は約千七百倍にもなるのだ。つまり。
「一」
 僕の高温度の火と、ハイドの圧縮された水の塊をぶつけたらどうなるか。想像は容易いだろう。浮遊した僕の炎とハイドの水の塊が徐々に近づいていく。すでにボン、ボンと何やら軽い爆発音が響いてはいるが、この二つが生み出す威力はこの程度ではない。
「ゼロ。今!」
 ただの並行移動だけでその爆弾は完成する。同時にミロオが作り出した魔力によって保っている盾の中に入り込んだ。コンマ一秒、すんでのところでちいも引き込む。
 耳を塞いでいてよかった。爆音とともにあたりは煙と、熱風で包まれる。僕たちの周囲にいた関係のない両クラスの生徒も巻き込んだが気にしていられるか。
 一定距離生徒たちから離れた場所で爆発させたから大きな怪我をしている生徒もいないだろう。黒い長い髪をしたアッカ生が直前にもう一人の緑髪を地面に伏せさせていたのも見た。
 あくまでこのイベントで必要なのは攻撃の回数、その内容。一対一で戦うのが悪いとは言わないが、ちゃんと頭を使ってポイントを取っていかなくちゃ。
「ナイスファイト。まだまだ行くよ」
「え、無理!」
「頑張りましょう!」
 四者四様の表情を残して修練棟イベントは続いて行く。



修練棟イベント 16時の部
ハイドくん(@4673kanata),ミロオくん(@makiti99)ちいくん(@utatane__zZ)
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