その鬼は笑った

039:鬼





 見失った。一瞬の出来事だった。ようやく接近戦に持ち込めてレイに数発叩き込んだ、その時だった。お得意の土魔法で周囲に壁を作られたのだ。すぐにその壁は消え去ったものの、あいつの姿は数多の生徒の中に紛れ込んでしまった。後方で強化支援をしていたアルミリアも不思議そうに周りを見ている。
「っ、クオリア!」
 アルの声と背後に迫る鈍い刃先に気づくのは同時だった。いくら強化されてるとはいえ、人の動くスピードには限界がある。衝撃に備えた、はずだった。
 数秒後、来たるはずの衝撃は来ない。背後でレイの舌打ちと別の気配がした。
「戦闘中によそ見をするのはお勧めしませんが」
 見知らぬ生徒だった。いや、見かけたことくらいはあるが実際に喋ったことも、名前を聞いたこともない。ただどこか、知り合いに似ているような雰囲気を醸し出している。この様相、どこで見たんだろうか?
「だから……」
 どうやら相手は俺のことを少しは知っていたようで、少しイラだったようにレイを弾き飛ばした。腕力はそれなりにあるようだ。身の丈ほどある斧のような武器を振り回し、レイを追随する。
「考え事なんて余裕ですね……っ」
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 最大魔力を込めたのか、作り上げた壁と彼の斧頭がぶつかった。ハッとして後ろから彼に駆け寄り、斜めになっている背中を登った。
「な……っ!?」
「ありがとな、名前わかんねえけど」
 そのまま頭に手をやって壁ごと乗り越える。レイを真正面に捉え、鉄パイプで脇腹を殴った。
「……っGemiti le mie ali唸れ我が翼
 ぐ、と一言唸ったレイは翼をはためかせて後方へ下がる。俺がレイを追いかけると同時に並走して先ほどの彼が追ってきた。
「お前意外とやるなぁ」
「そうですか? あなたこそ」
「そのでけーの何?」
「バルディッシュという武器です。ところで、彼は知り合いですか」
「おう。なんか知らねえけど腐れ縁? みてーなやつ」
 走りながら言葉を交わす。レイが次の詠唱を唱えかける。一瞬、彼と目があった。お互い別方向に動きながらレイを挟み撃ちにしていく。
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 十八番かと思うほどにレイは土の壁を作り出し、さらにその壁から無数の土の縄を繰り出した。俺も彼もなんとか避け徐々に近づいていく。
 彼のバルディッシュが土の壁を切り裂いた。レイは間一髪でその切っ先を避ける。そのまま地面に突き刺さったバルディッシュから彼は手を、離した。何してるんだ、と思った矢先彼はバルディッシュの上を駆け抜けてレイとの距離を詰める。気づけば彼の手には小型のナイフが握られていた。早い。
Il nostro una spada我が主の剣
 レイの意識が彼に取られている瞬間、背後を取った。土の壁はレイの手に出現した土の剣のおかげで消えている。左腕を振り上げ、右腕を横から。レイの首めがけて振り下ろす。
「討ち取ったりィ!」
 そう叫んだ瞬間、勝ちを確信したのにもかかわらず俺の腕は振り下ろされなかった。何かに掴まれているかのように動きが止まる。両手を確認すると、鉄パイプの先にイバラのツタが絡まっていた。その先を見やるとそこにはクロー生の女の子が一人。
 とっさに武器を捨てて離れる。アッカの彼は数発叩き込んだようだが、同様に妨害にあってレイとは距離をとった。
「なぁお前、名前は?」
「ターヴィ・カム。一年です」
「俺も一年。クオリア・エルベールだ」
「……ええ、知ってます。知り合いと一緒にいたのを何度か」
 どこか暗い影を落とすような言い方に引っかかりを感じた。やっぱりどこかで見たような記憶がある。あるはずなのだが、どうしても今は思い出せない。
「知り合い?」
「お気になさらず。来ますよ」
 イバラが解放した鉄パイプ二本を拾い上げ、両手に構えた。ふわふわの緑髪を携えた少女がレイの横に立っている。ほんのりと淡い光が見えた。レイの回復をしているのだろう、おそらく木属性の生徒だ。
 生憎回復してしまったレイが再度詠唱を始めた。ターヴィと同時に走り出す。不思議と、いや、必然的か。俺とターヴィの口角が上がっていた。



テトイ_交流祭 修練棟イベント03
ターヴィくん(@utatane_zZ)、ノクムちゃん(@hakabakasii)お借りしてます。
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