Fin.


それから少しだけ周助と他愛もない弟話をし、部活からの帰り道。
いつもの様にまばらにチームメイト達が減っていき、真っ直ぐに歩き出すこの道には私と国光だけが残る。


「…浮かない顔をしているが、どうした?何かあったのか?」


話の途中でふと投げかけられた質問に、思わず彼の顔を見た。


「思い過ごしだったらすまない」


自分でも気づいていなかったそれに、正直驚いた。
要因なんて、思い当たるのは一つしかない。
でも周助と話して自分の中ではひと段落した、はず、だったのに。


「…私、そんな顔してた?」
「一人で何かを考え込んでいる時のような顔をしていたが、…合っているか?」


合ってるのかも、とへらりと笑いながら曖昧な返事をすれば、国光はここ最近ではもう見慣れた心配を滲ませた顔を向けてくる。


「部活のことじゃないよ。そこは安心して」
「…そうか」


それだけ言うと、国光は口を噤んだ。
個人的なことだろうと判断して、聞いてこない辺りが国光の優しさらしい。
だからなんだろうか、何故か国光には安心して色々話せてしまうのは。


「さっき話した、弟がこっちに帰ってきてるって話」
「あぁ。彼の試合を見に行くと言っていたな」
「そうなんだけどね…」


周助との会話や私の思いを国光にも話せば、国光は納得したように成程と呟いた。


「お前の気持ちは理解出来る。それに、彼の気持ちもなんとなくだが理解出来る」
「え」
「不二の言う通り、遠目に見るなんてことはせずに、きっちり話をして来たらいい。お前の思いは必ず伝わる」


そう、だろうか。
…でもやっぱり、ずっと背を向け続ける訳にもいかないもんなぁ。
私はまたラケットを握ることが出来た。
昔程ではないにしろ、またコートに立つことが出来た。
なら、またリョーマと一緒に、あの頃のように笑ってテニスだってしたい。


「…うん。ちゃんと話してくるよ」


あぁ、と優しい声が返ってくる。

あの日からずっと、国光はいつだって誰よりも私を支え、背中を押してくれる。
初めはただ申し訳なさでいっぱいだったのに、いつの間にか、知らないうちにそれらは私の胸を温かくしてくれていた。
今でも申し訳なさはあるけれど、それ以上に感謝の方が比重が大きいと素直に思えるのは、自分で言うのもあれだけど国光に気を許せているのだろうと思えた。
勿論国光だけじゃなくていつものメンバーには気を許しているところはあるけれど、やっぱり国光は一番一緒にいる時間が多いし、彼の人間性も考えて色々話をしても大丈夫だという安心感もある。


「ありがとう」


少し驚いたような顔がこちらを見下ろしてくる。
そんな顔をされるとは思わず、え、と声を漏らせば、その顔はすぐに柔らかなものへと変わっていく。


「何かあればまた話を聞かせて欲しい。俺で良ければ力になる」
「…ふふ、国光もなんかあったら話してね」
「あぁ、そうさせて貰おう」


朗らかな時間に静かに鳴る、二人分の足音。
なんだかその音色が妙に心地よくて、安心して、柄にもなく、この道がずっと続いていればいいのに、なんて思いが心の片隅で生まれたような気がした。



* * *



庭の桜の木は、もう零れそうなほどに膨らんだ蕾をたくさん並べている。
咲き始めはもうじきなんだろうけど、満開になる頃には私は3年生になっているのだろうか。


「せめて、リョーマが私のことを覚えていてくれますように…」


あわよくばちゃんと話せますように。
あ、あとまたリョーマとテニスができますように、…あ、それから…!と、自分と同い年の大木に手を合わせた。


「……元気にしてるといいなぁ」


早く、会いたいな。
数日先の再会を想って、私の足取りは軽やかに室内へと向かっていった。

部屋に戻れば、あの日から大切に飾ってある青学テディベアと、その足の間に挟むように置かれたお揃いのウサギの置物が目に入る。


"目指せ全国NO.1!"


個性豊かな筆跡達が綴るそれに、自然と頬が緩んでいく。

この先、たとえどんな未来が待っていても、皆が手を引いて進めてくれたこの足を止めたりはしない。
どんな強敵が立ち塞がろうとも、私達は絶対に負けない。
明るく、楽しく……皆で笑って終えるんだ。

最後の瞬間を迎えるその時まで、全員の想いを胸に前進し続けてやろうじゃないか。



『advance.』 完


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