一番最初に見せたくて 11月中旬頃のおはなし


ある休みの日の昼前。
宿題の合間休憩に本を読んでいると、唐突にスマホが机に振動を伝えた。
見れば新着メッセージが1件…桃からだ。
どうしたんだろうと思いながらメッセージアプリを開いた私の目に飛び込んできたのは、1枚の写真だった。



ーーーーーーーーーーーーーーー

桃城
【私服の上から青学レギュラージャージを羽織った写真】

ーーーーーーーーーーーーーーー



思わず頬を緩めてそれをじっくりと眺めていれば、また新しく桃から数行のメッセージが届いた。
今にも桃の声が聞こえてきそうなそれに笑い、私はスマホの画面に指を添えた。



ーーーーーーーーーーーーーーー

桃城
名前先輩!
どうすか!?似合ってますか!?

名前
似合ってるよ!
かっこいいね!

桃城
【ありがとう!のスタンプ】

桃城
名前先輩に一番最初に見てもらいたくて!
あ!海堂には内緒っすよ!!

名前
え、一番が私で良かったの?
了解です笑

桃城
当たり前じゃないすか!
明日の部活の時まで待ちきれなかったんで送っちゃいました

ーーーーーーーーーーーーーーー



当たり前、という言葉に嬉しさや照れで体がムズムズする。
桃もきっと頬を緩めてソワソワしながらメッセージを送ってくれたのだろう。
子供が描いた絵を貰う親というのはこんな気持ちなんだろうか。

それから桃とやりとりを続けていると、桃とは別にまた新着メッセージの通知が届いた。
今度は誰だろう。
一度画面を戻して見れば、それは先程桃との会話にも出てきた薫からだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー

海堂
先輩、今お時間大丈夫ですか?

名前
大丈夫だよ
どうしたの?

ーーーーーーーーーーーーーーー



対面時とはガラッと変わってとてつもなく丁寧な文章は、いつ見ても数回読み直してしまう。
珍しい薫からのメッセージに先程の桃の件も相まって、もしかして、なんて淡い期待が込み上げてきた。

私の返信から1〜2分経っただろうか。
桃とのやりとりの途中に薫から送られてきたのは数行のメッセージと、やはり1枚の写真だった。



ーーーーーーーーーーーーーーー

海堂
先程レギュラージャージを受け取ってきました
先輩には色々とお世話になっていますし、先に見て頂きたかったので写真を送ります

海堂
【青学レギュラーユニフォームとジャージをしっかりと着た写真】

ーーーーーーーーーーーーーーー



この2人はどうしてこうも…
最初桃から送られてきた時はその元気の良さに引っ張られていたが、次いで薫も、となるといよいよ涙腺に触れそうだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー

名前
似合ってるね!かっこいいじゃん!
もしかして、その格好を見たのは私が一番最初かな?

海堂
ありがとうございます
先輩には一番最初に見て欲しかったので
お忙しいのにすみません

名前
全然だよ
むしろ凄く嬉しい!
明日ちゃんと本物を見れるのも楽しみにしてるね

海堂
はい
これからもよろしくお願いします

ーーーーーーーーーーーーーーー



薫とのやりとりはすぐに終わってしまったものの、私の胸に灯る温かさはすぐには消えないだろう。
桃からの新しいメッセージの通知にまた頬が緩む。
仲がいいのか悪いのか、それでもやっぱり似た者同士のいいライバルで、普段は真逆に見えて同じような温かさを持つ後輩2人。


「…ほんと、よくこんなにいいメンバーが集まるよなぁ、青学は」


その中にいられることの幸せを噛み締めながら、桃へのメッセージの送信ボタンを押した。



* * *



「名前せんぱ〜い!!」
「桃!」


女テニの部室からテニスコートに向かった私を、パタパタと走りよってくる桃が出迎えてくれた。
真新しい青と白に身を包んだ彼は、普段よりも数倍頼もしく見えてくる。


「うん!やっぱり似合ってるね、かっこいいじゃん!」
「っへへ、あざっス!」


と、


「名前先輩」


桃の後ろから今度は薫がおずおずと近付いてきた。
そんな彼も真新しい青と白に包まれ、桃と同じくとても頼もしく見える。
少し離れたところで、他のレギュラーメンバー達が微笑ましそうにこちらを眺めているのが薫越しに見えた。


「薫も似合ってるね!かっこいい!」
「ッス…!」


照れたようにぺこりとお辞儀をした薫を、にやにやと笑う桃が肘で小突いた。


「おいおい、お前照れてんのかよ〜?」
「なっ…んだとコラァ!?」


えぇー…なんでそうなる…?
見た目は頼もしくなっても、ぎゃいぎゃいと目の前で行われるそれは全くもっていつも通り。


「そもそも俺は昨日もう先輩に見てもらってんだよ!」
「はぁ!?ちょ、名前先輩!?コイツと一緒にジャージ取りに行ったんスか!?」
「違ェよ!写真だ!!」
「あ、そうだよ。薫も写真送ってくれたの」
「…"も"…?…桃城、まさかテメェ…!」
「ぃい!?か、海堂っ…お前も名前先輩に!?」


…あ、桃から薫に言うなって言われてたけど、まぁいいか。
うん、後半は自分から言ったようなもんだよね。

謎にヒートアップしていく2人の向こうで、主に秀とタカさんが焦ったようにこちらを指差し他のレギュラー達と会話をしているのが見える。
そんな彼らに大丈夫だと手を振り、2人を止めようと視線を上げた時、


「「先輩!!」」
「…え?」
「「写真、どっちが先っスか!?」」
「はぁ…?」


新品の互いのジャージを掴み合いながら頬を寄せた2人に見下ろされ、呆れの苦笑を漏らした。


「内緒」
「なっ…こうなったら海堂!お前のスマホ見せてみろよ!」
「あぁ!?テメェが先だ!」
「んだよ、先に見せんのが怖ぇのかよ?」
「っテメェもだろ!!つか名前先輩が内緒っつってんだから内緒だろうが!」


言い争いは止まることを知らず。
そろそろ部活も始まるし、早く止めないと今にも秀がこちらに駆けてきそうだし、その前に国光の雷が落ちるだろう。


「はぁ…2人共」


ぴたりと同時に動きを止めた2人が素早くこちらを向いた。


「喧嘩するならそのジャージひっぺがすよ」


2人はひくっと目元を引き攣らせ、スンマセン!!とこれまた同時に互いに掴んでいた手を離した。
その間を割るように通り抜け、皆が待つ方へと歩いていけばすぐに2人が焦ったように着いて来る。
先程の2人の大声でのやりとりはきっと皆にも聞こえていただろう。
…この辺りなら、私の声も届くかな。
程よい所で2人の名前を呼べば、すぐ背後から焦ったような返事が聞こえた。


「後でテニスで私に勝てたら、勝てた方に教えてあげる」
「「!」」
「てことで国光、いいよね?」


見つめた視線の先で、溜息と共に仕方なさそうに国光が小さく頷いた。


back