立海秘話 立海視点 2月中旬頃のおはなし


今朝は何故だか異様に丸井の機嫌が良かった。
基本いつも楽しそうにしている丸井だが、今日は変な鼻歌まで聞こえてくる始末。


「機嫌、良さそうじゃの」


なんかあったんか、という意味合いを込めてそう聞けば、丸井はギクリと肩を揺らして貼り付けたような笑顔でこちらを振り返った。
いつもなら、聞いてくれよ!とすぐに言うコイツが、……ほう、これは何か隠しとるな。


「いっ、いや!?何もねぇよ!」


何かあること間違い無しなのは確実だが、ここで変な詮索は御法度。
まずは相手の流れに合わせて警戒を解くところから、が基本だ。
ほーん、と適当に返した俺の返事を聞いた丸井は、ホッとしたようにすぐ机に向き直って授業の準備を始めた。


「……ピヨ」


今日はなんだか、楽しい一日になりそうじゃ。



* * *



今朝仁王に突っ込まれた時はマジで焦った。
知らないうちに出そうになる鼻歌を意図的に押さえ込みながら過ごすこと数時間、あれ以来仁王から今朝の話題は出てこない。
危ねぇ危ねぇ…今日は特に、言動には注意しねーと…

これはジャッカル以外には絶対に知られてはいけない秘密の話だ。
もう何度目かになる昨日の名前とのメッセージのやりとりを思い返しながら、ニヤけそうになる顔を必死に抑えて昼食確保のために購買へと向かった。


「…お?」


前方に見慣れたスキンヘッドを見つけた。
仲間を見つけた安堵感のようなものを感じながら、俺はそいつに駆け寄った。


「おーい!ジャッカル!」


振り返ったソイツは俺の姿を捉えて、おう、と短い返事をした。


「聞いてくれよ〜!今朝仁王がさぁ!」
「ん、そういやぁ…」
「ん?」
「お前、仁王に口でも滑らせたか?」


ドキリと心臓が鳴った。
慌てて何も言ってないと手を振れば、ならいいけどよ、と少し呆れたような視線が降ってくる。


「もしかしてお前、仁王になんか言われた?」
「一限目の後に仁王が俺のとこに来たんだよ。お前がなんか隠してるみたいだが、何か知らねぇかってよ」
「うげっ!」


一限目が終わってすぐ、確かに仁王はフラリとどこかへ姿を消した。
いつもの事だから気にも止めなかったけど、あいつ、いつの間にジャッカルの所に…!


「お前こそ、何も話してねぇよな…!?」
「話してねぇよ…」


良かった〜…と胸を撫で下ろした。


「ったく…あまり機嫌良さそうにしてっと他の奴にもバレるぞ」
「しょーがねーだろい?まさか名前からOK貰えるなんて思ってなかったんだからよ」
「…そりゃ、良かったな」
「つーかジャッカル!お前!俺に!感謝しろよぃ!」


怪訝そうな複雑そうな顔をしたジャッカルに詰め寄りつんつんと胸を突けば、なんだよ、と少し迷惑そうな顔をされた。


「俺が名前を誘ったおかげで、お前も名前に会えんだからよ」
「あー…まぁな。そこは感謝してるけどよ…」


ふと自身のスラックスのポケットに手を入れたジャッカルは、財布を取り出してから小さな声を上げた。


「悪い、それいつだったっけ。カレンダーに登録すんの忘れてた。スマホ教室に置いてきちまったから後で登録しとくわ」
「ったく、しっかりしろよ〜」


名前との約束の日時と集合場所を口頭で伝えればジャッカルは、しっかり後で登録しとく、と、思えば今日初の薄ら笑みを見せた。
その笑みに何処と無く違和感を感じたのもつかの間、気づけば購買に着いていた俺達は互いに食料を買い込み、たまにはとジャッカルの提案で屋上へ向かった。



* * *



屋上へと続く階段を登りながらちらりと隣の赤髪を盗み見る。
…おーおー、騙されているとも知らず、間抜けな面じゃのう。
この後すぐに待ち構えているネタばらしに、コイツはどういう反応を見せてくれるのか。


「…楽しみぜよ」
「ん?ジャッカル、何か言ったか?」
「何も言ってねーぞ?」


ふーんと相槌を一つ、そしてすぐに隣からは相変わらずの鼻歌。
簡単な奴じゃき。
内心でほくそ笑みながら、丸井が屋上への扉を開ける後に続いた。


「あ!丸井せんぱ〜い!…と、あ、あれ…?」


丸井に気づいた赤也が手を振る。
そしてすぐに自身の隣にいる"もう一人の人物"と俺とを、視線を行ったり来たりさせた。


「…え?は!?」


赤也の隣で驚いたようにこちらを見る、その"もう一人の人物"を視界に入れたのであろう丸井が、すごい勢いで俺を振り返った。
丸井は再度向こうへ、そして俺へ、赤也と同じように何度も首を振る。
やがて何かに気づいたかのように目を真ん丸に見開き、これが最後であろう、俺の方へと首を一気に捻った。


「っお、お前っ…!」


さーて、ネタばらしといこうかのう。


「プリッ」


もう自然に吊り上がる口元を隠したりはしない。
お決まりのセリフと共に"ガワ"を剥ぎ取れば、丸井はひくりと目元をヒクつかせた。


「いーことを聞かせてもらったぜよ」
「にっ…に、仁王…!!?」


わなわなと震える丸井を放置し、なんとなく流れを察していそうな"本物"のジャッカル、そしてまだ一人現状を理解していない赤也の元へと向かった。


「赤也、約束覚えちょるか?」
「へ?アレっすよね?いーことを教えてやるから、一週間飯奢れってやつ…」
「約束通り教えてやるぜよ。いーこと」



* * *



何度ため息をついたことだろうか。
あれほど人にバラすなと散々言っておいて、結局仁王に騙され赤也にもバラされ、相棒ながらその単純さにアホだろと呆れてしまった。
まぁ…相手があの仁王なら仕方ねぇとは思うが…


「っくっそぉー!仁王てめー覚えとけよ…!」
「フッ、お喋りが過ぎたのう、丸井」


負け犬のように吠えるブン太と、それをいつもの様に笑みを浮かべて平然と受け流す仁王。
そして食べ物を頬張りながらこの場で一人明るくはしゃぐ後輩。


「俺、こんな唐突に名前さんに会えるなんて思ってなかったッス!」
「ぐっ…くっそぉ〜!!」


悔しそうに拳を握るブン太にかけてやれる言葉があるとすれば…


「…ドンマイ」


普段はブン太から俺に良く言われる言葉を、そっくりそのままお返した。


back