10月7日 10.7 手塚HBD


「そういえば手塚くん、今日誕生日なんでしょ?おめでとう」


生徒会の集まりが終わり、部活に向かおうと共に歩き出した時にそう言えば、彼はじっと私の顔を見つめた。
無表情。
これは…どういう感情なんだろうか…
流石におめでとうに無下な反応をしたり謎に怒り出すような人ではないとは分かっているが、どうにもまだ感情が読めない。


「…どうして知っているんだ?」


少しの間があってやっと口を開いたかと思えば、成程、普通に驚いただけらしい。
今まで生徒会しか縁がなく、会話をしたとしても生徒会に関することだけだったから、私が手塚くんの誕生日を知っていることが不思議なのだろう。


「昨日周助が教えてくれたの。明日は手塚の誕生日なんだ、って」
「…そうか。ありがとう」


折角の誕生日の主役なんだから、もう少し顔の筋肉を緩めればいいのに。
なんて内心で少し笑いながら、私はラケットバッグの片方のショルダーを腕から抜き、昨日買ったばかりの小さな紙袋を取り出した。


「はい」
「これは…?」


誕プレってやつだよ、とラケットバッグを背負い直しながら再度その紙袋を手塚くんの方へと動かせば、戸惑いながらも私の手から紙袋が離れていく。


「貰ってもいいのか…?」
「あげるために買ったんだから。いらなかったら…まぁ、いつか私が使おうかな」
「いや、…開けてもいいだろうか」
「どうぞ。急だったからそんなにいいものじゃないけど」


カサリと紙袋の口が開かれ、中を覗き込んだ手塚くんの足が止まった。


「…リストバンドか?」


私も歩みを止めて彼を振り返る。


「そ、…使う?」
「使う、が…本当にいいのか?貰ってしまって…」
「んふふ、心配性?プレゼントなんだからいいんだよ」


そうか…と手塚くんは開く前と同じように紙袋の口を丁寧に閉じ、それを自身のラケットバッグへと慎重にしまった。
それから私の方へと真っ直ぐに向き直り、僅かに視線と頭を落とした。


「ありがとう。大切に使わせてもらう」


こんなところまで固いなぁ。
まぁ年相応に、わーいありがとう!なんて言うような人じゃあないけれど。
手塚くんの欲しいものが分からなかったから無難な物を選んだが、どうやら使って貰えそうで安心した。


「あまり重く捉えないでね。ここ最近の色々なお礼でもあるし…たまたま手塚くんの誕生日が近くて良かったよ」


こんなもの一つでお礼になるかは分からないけれど、それはまた今後マネージャー業として地道に返していけたらと思う。
テニスコートへの歩みを再開させれば、手塚くんも少し複雑そうな表情で着いてきた。


「苗字、お前の誕生日はいつだ?」


隣に並んだ手塚くんがちらりと私を見て言う。
お礼でも返すつもりなのだろうか。


「内緒」


く、と手塚くんの眉間に皺が寄った。


「お礼がリピートしそうだからいいって。気にしないで」
「だが…」


何か言いたそうな顔をして口を噤んだ彼は、それなら、と私から前方へと視線を戻した。


「後で乾にでも聞く」
「誰にも言ったことないし、知らないんじゃない?」
「なら、調べよう。お前の名前ならネットに答えがあるだろう」
「え!?それはズルくない!?」


流石に深い個人情報はないにしろ、誕生日などの簡単なプロフィールはネットにたくさん転がっているだろう。
ていうかそこまでして知りたいんですか…


「貰っておいて、それでお終いという訳にはいかない」
「…律儀だねぇ…」
「当然だ」


誕生日だと聞いて、色々と迷惑っぽいものもかけてしまったお詫びやお礼のつもりでほんの思いつきで行動をしただけなんだけど…
余計なことしなきゃよかったかなぁ…
ちらりと盗み見た隣を行く手塚くんは相変わらず無表情で、何を考えているのかは分からない。
と、急に手塚くんが目線を下げ、目が合った。


「そんなに心配しなくても、有難いと思っている」
「へ…?」
「友人からこうして贈り物を貰うのは久しぶりだから、どういった反応が正しいのか分からないんだが…嬉しいと思っているのは確かだ」
「あ、いや…それなら良かった」


友人、とはなんとも擽ったいものだ。
考えてる事はちょっと違うんだけど、まぁ、喜んでくれているらしいのでいいとしよう。



* * *



家に帰り、改めて取り出した紙袋。
中には白地に両端が青で縁取られているリストバンドが入っている。
未だ透明なビニール袋に入れられたままのそれの隣に、それまで使っていたリストバンドを置いた。

使わせてもらう、と言った手前いつかどこかで使いたいとは思う。
が、使ってしまうのが、ビニールの袋から出すことすら勿体ないと思う自分がいる。


「………」


少し悩んで、見慣れたリストバンドをまたラケットバッグに戻し、新しいそれは再度紙袋に戻してから机の中へとしまった。
それからスマホを持ち上げ、検索画面を開く。


[苗字名前]


検索欄に彼女の名前を打ち込めば、その名の隣にキーワードサジェストとして並ぶ"事故"や"現在"というワード。
どういったものが検索されているのか、その内容が気になりはするが、あまり深い詮索はしない方がいいだろうとそれらを見なかったことにして、上書きするように彼女の名前の横に"誕生日"と打ち込んだ。

ちゃんと出てきてくれればいいんだが…
そう思いながら検索ボタンを押せば、すぐに切り替わった画面に映し出された数年前の彼女の写真。
そしてその下にはしっかりと彼女のものであろう生年月日が表記されていて、俺はほっと一息ついた。


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