サンタクロース クリスマス特別閑話


12月の日付が過ぎれば過ぎていくほど街は徐々に着飾りを増やし、キラキラと輝くイルミネーションや赤と緑のツーカラーが世界を埋めつくしていく。
ケーキの予約を促すのぼりやポスター、可愛らしくお洒落な飾り品が並ぶ店頭の横を何度も通り越す度に思う。


「クリスマスだなぁー…」


いつも通りの学校からの帰り道、特に誰に宛てたものでもなくそう零せばワンテンポ遅れて隣から、そうだな、と律儀に返事が返ってきた。


「国光って、サンタクロースいると思う?」


今度は明確に向けた問いに返事は無い。
彼の方を見上げれば、少し困ったような迷いをチラつかせた表情でちらりと私を見下ろしてきた。


「お前は?」
「そう聞いてくるってことは半信半疑か、もしくは私がいると思ってると思ってハッキリ"いない"って言えないから?」
「…後者だな」


ふふ、と笑いを漏らせば不安を吐き出すような小さなため息。


「夢を壊す訳にはいかないだろう」
「私はいると思ってるけどなぁ?サンタさん」


ぴくりと国光の目が開かれ、やってしまった、とでもいうように視線が揺れる。


「嘘」
「…は、」
「や、正直なところ半信半疑かなぁ。いないって思ってるけど、実はいるのかも〜とも思ってる」


目線が、なんだそれは、と訴えかけてくる。
下手なことは言えないからか、口はほんの僅かに動くけれど開くことはない。


「サンタの正体が親でした、なんてことはもうとっくに知ってるけどさ。でもやっぱ、どこかにはいるんじゃないかなーとは思う」
「…幽霊やUFOと同じような類ということか?」
「そーそー!目には見えないけど、概念?みたいな感じでいると思うんだよね」


良くも悪くも現実主義らしい国光は難しそうに考えながらも、そういう考え方もあるのか、と彼なりに私の言葉を理解しようとしてくれる。
私はその優しさへ補足するように、例えば、と口を開いた。


「私が国光にクリスマスプレゼントをあげたとする。サンタさんからだよ、って」
「…?それはサンタではなくお前からのプレゼントだろう」
「そうだけど、違うんだよ。私が国光にプレゼントをあげようと思ったこと、そこにサンタクロースが"いる"んじゃないかなぁって。だから渡したのは私だけど、サンタさんからのプレゼントなの」
「………」


難しそうな顔をするでもなく、分かったという顔をするでもなく、いつも通りの真面目な顔がふと下を向いた。


「あはは、分かんないか。説明するのって難しいなぁ」


それを悩んでいると捉えた私に国光は、いや、と顔を上げた。


「感心しているんだ」
「感心?」
「要は、誰かを想う気持ちそのものがサンタクロースだということじゃないのか?」
「!」


それ!それだよ!と明るい声を上げれば、国光は再度視線を落とし、それからすぐに橙が滲む空を見上げた。
空の向こう、そのまた遠くを見つめるような目。


「…お前が言うのなら、確かにサンタクロースは"いる"んだろうな」
「え、今まで信じてなさそうだったのにそんな簡単に信じちゃうの?」
「お前の意見も一理あると思った。それに、それなら確かに"いる"んだろうとも思う」


ほう、私がこんな不透明な分野の話であの冷静沈着現実主義の意見を変えたと。


「でもま、サンタさんはいい子の所にしか来ないからね」
「お前はそのいい子に当てはまらないのか?」
「……うーん?どうだろ?」


今年、私はいい子でいたのだろうか。
ていうかいい子ってなんだろう、そもそもそこが不明瞭すぎて判断が難しい。


「俺から見たお前は、十分いい子の部類に入ると思うが」
「…そう?」
「去年はどうだったんだ。サンタクロースは来たのか?」
「来たよ。日本から2人、アメリカからはたくさん」
「なら、今年もきっと来るだろうな」
「んふふ、国光のとこにも来るといいねぇ、サンタさん」
「…そうだな」


そんな話を国光としてから数日が過ぎ、迎えたクリスマスの日。
1階のリビングに降りた私の目にまず飛び込んできたのは、大きなクリスマスツリーだった。
去年、一昨年と、私がこの家に来てから一度も見ていなかったそれは、どうやら昨日私が寝た後におじいちゃんが組み立て、おばあちゃんと一緒に飾り付けまでしてくれたのだそう。
そのツリーの根元には綺麗にラッピングがされた箱と紙袋。
2人の話によれば、クリスマスツリーは飾ったけれどプレゼントは置いていない、のだそうで。


「…ふふ、今年もサンタさん来てくれたんだ」
「勿論来るわよ。名前ちゃんはずっといい子にしていたもの」
「そうだなぁ。で、サンタさんは何をくれたんだ?」


ほくほくと楽しそうに笑う2人に見守られながら開けたそれらは、箱からは新しいテニスシューズ、紙袋からは私がよく使っているグリップテープや新品のボールボトル等のテニスグッズ。
私の好みや使用品までも完璧に理解してるサンタさんはすごいなぁ、と感謝に変えて喜びを2人に伝えた。
それから神奈川にいる祖父母達にもサンタが来たことと、同じように喜びを伝えれば、やっぱり嬉しそうに良かったねと優しい言葉が返ってきた。

冬休み、しかもクリスマスと言えど普通に部活はあるもので、いつも通り家を出て歩いていけばやがて小さな交差点に差し掛かる。
たまに別の路地から歩いてくる国光とばったり会えば一緒に学校へ行く、くらいだったのだが、今日は何故か国光が誰かを待っているかのように静かにそこに立っていた。
不思議に思いながらおはようと声をかけつつ近寄れば、彼からもおはようと挨拶。


「誰か待ってるの?」
「お前を待っていたんだ」
「へ?」


国光は徐にラケットバッグを肩から降ろし、ごそりとその中へ片手を入れた。


「名前に渡して欲しい、と頼まれた」


はい?
ぽかんとその言葉へ聞き返し動向を探っていると、差し出されたのは小さな紙袋で。
渡されるまま受け取って中身を覗けば、中には可愛らしいリボンでラッピングされたクッキーが入っている。


「え、っと…?誰から…?」


国光は少し言葉を詰まらせ、やがて小さく口を開く。


「…サンタクロースから」
「!!」


一瞬で理解した。
そう言われてしまえば、返せるはずもない。


「…ふふ、3人目のサンタさんだ」
「そうか」
「でもどうしよう…お返しが…」
「その必要は無い」
「え?」
「…と、思う」
「あははっ、なにそれ」


ふい、と視線を逸らして歩き出す国光の隣に並んだ。


「ねぇねぇ国光」
「なんだ」
「国光に私宛てのプレゼントを渡してくれたサンタさん、まだこの辺にいるかな?」
「……どうだろうな」


くすりと小さく笑みを漏らし、手の中にある小さな紙袋をきゅっと握る。


「ありがとう、恥ずかしがり屋のサンタさん。大事に食べます」
「………」
「伝わったかなぁ」
「…あぁ」


部活が終わって家に帰ると、朝には無かった色とりどりの包がツリーの根元に増えていた。
送り主はどれもアメリカから。
来年は、私もサンタクロースにプレゼントを託してみようかな。


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