彼らに全てを伝えたはいいものの…


「っごめん!!!本っ当にごめん!!!」
「え、英二、気にしなくていいって…」


私があの苗字北斗の娘だと知って驚くメンバーを他所に、途中から段々と顔を青くしていった英二は、話が終わってからはずっとこんな調子でひたすら私に謝りっぱなしだ。


「元々黙ってたのも私だし、打ち合い断んなかったのも私だし、試合形式にしたのも私だし…それに、楽しかったよ?」
「今日だけじゃなくて…!俺っ、去年からずっと、名前に練習見に来てなんてしつこく言っちゃってて…!!」
「英二は悪くないよ、大丈夫」


そろそろ本気で泣き出しそうな英二に苦笑しつつ、ありがとうね、と声をかければ、彼の声はピタリと止まった。


「…え…?」
「英二のおかげでスッキリした。だから、ありがとう」


感謝を込めて笑顔を向ければ、大きく見開いた英二の目からはぽろぽろと涙が……涙!?


「っちょ、英二!?泣かないでよ…!!」
「うわぁぁぁん!!!ごめんにゃぁぁ…!!」
「なんでそうなるの!?」


慌てて立ち上がり、英二の元へ向かった。
えぐえぐと涙を拭う彼の頭をよーしよしと撫でていれば、それまで黙っていた手塚くんがスっと立ち上がった。
自然と皆の視線が彼へ向かう。


「今年、俺達は全国には行けなかった。だから来年こそは、皆で全国に行く」


彼の真っ直ぐな視線は、ここにいる全員を順に辿り、最後に私へ。


「勿論、苗字もチームの一員として。俺達と一緒に、全国の頂点を目指してほしい」


ストン、とその言葉が優しく胸に落ちる。
暖かくなった胸に手を当て、そっと目を閉じた。


「勿論だよ」


私はもうプレイヤーではないけれど、それでも確かに、私はプレイヤーだ。
ここにいる彼らと共に、全国のトップを目指す仲間になれたら嬉しいと素直に思う。


「…ふふふ、もう皆には私の正体ばらしちゃったし、明日の練習からはもっと厳しくしちゃおっかな〜」


そうにやりと笑えば、う、とたじろぐ彼らもやがて強い意志と共に笑顔を返してくれた。
和やかな空気に落ち着き、英二も無事泣き止み、帰り支度をしているときにふと思う。


「そう言えば、手塚くん」
「なんだ?」
「ずっと思ってたんだけど、国光って呼んでいい?」


ぴたっと彼の手が止まり、彼らしからぬなんとも言えない顔がこちらを振り返った。


「苗字呼びってなんかしっくりこないんだよねぇ」


アメリカじゃ基本名前かあだ名呼びだったし、今ここにいるメンバーのことは英二繋がりで出会った当初に話の流れで徐々に名前やあだ名呼びに変わっていった。
ただ、手塚くんに関しては出会いが生徒会だったため、今までずっと手塚くんのままだったのだ。


「いいじゃない、手塚。いっそのこと、キミも彼女のことくらい名前で呼んだら?」


くすくすと笑う周助は何を考えているのか読めない。


「確かに…基本苗字で呼んでる乾も、名前のことは名前で呼んでるもんな〜」
「彼女にそう呼んで欲しいと言われたからね」


フフ、と貞治が笑った。


「俺は、構わないが…」
「じゃ、国光ね!」
「…あぁ」


そこでいつもなら話は終わるのだが、今回は違った。


「…何故、皆して俺を見る」


私を含め、ここにいる全員の視線はじっと手塚くん、改め、国光へと注がれていて。
その視線から目を逸らし、国光はかちゃりと眼鏡を押し上げた。


「で?キミは?」


言葉に笑いを含ませながら、周助が国光へ有無を言わせぬ口調で言う。


「……お前は、それでいいのか」


ちら、と国光が私を見る。


「んふふ、じゃあ国光も私のことは名前で呼んで?」


改めてお願いするようにそう言えば、


「……、名前」


と、小さく了承の返事が返ってきた。



* * *



それから、無理をしない範囲で、という彼らとの約束の元、私も部活の打ち合いに参加させてもらうようになった。
と言っても打ち合いの相手は事情を知る彼らだけだったが、それでも、いや、だからこそ、日々成長を遂げる彼らとの打ち合いはとても楽しいものだった。
長時間は無理だけど、右膝も工夫すれば上手くカバー出来るようになったし、一時は突き放すように停滞していたテニスが、今になってまた前進することになるとは思ってもいなかった。


「ありがとう、秀」
「相変わらず強いね、名前ちゃん。前より球のスピードも威力も上がってるし…」


秀との2ゲームのみの打ち合いを終えれば、秀は苦笑しながら私に言う。


「秀は優しすぎ。相手のこと考えてたら、さっきみたいに足元救われちゃうよ」
「そ、それは名前ちゃんだから…!」
「気持ちは嬉しいけど、勝負の世界に情けは無用です!」
「うっ…善処します…」
「よろしい」


そんな話をしながらコートを出ると、国光が私を呼び止めた。
何?と返せば、彼の口から出たのは私も密かに期待を寄せていたとある2人の1年生の名前。


「桃城くんと、海堂くん?」
「あぁ。あいつらの成長は凄まじい。そろそろ11月のランキング戦の組み分けも考えなければいけないし、お前さえ良ければ打ち合いをしてやって欲しいんだが…」
「なるほど…」


彼らと打ち合いをする、恐らく、本気での打ち合いのことだろう。
ということは、彼らにも私のことを話すことになる。


「無理なら、」
「いいよ」
「えっ!?」


了承の返事に、国光よりも先に秀が驚いたような声を上げた。


「だ、大丈夫なのかい…?」
「大丈夫でしょ。あの2人なら、私も気になってたしね」
「すまない、助かる」
「ただ、打ち合いが終わるまでは話さないからね」


途端に眉を寄せた国光と、不安を顔一杯に広げた秀に小さく笑い、


「だって、話して手加減されたらやだもん」
「でも名前ちゃん…!」
「大丈夫大丈夫、ヤバくなったらやめるよ」


そう言えば国光は少しの間を空け、小さなため息と共に、無理はするな、と言って1年生達のいるコートを振り返った。


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