桃との打ち合いから2日後。
今日は海堂くんとの打ち合いの日だ。
桃にも伝えてなかったから、勿論海堂くんにも今日私と打ち合いをすることは伝えていない。

早くに終わってしまった朝イチの英語のテストを見直しながら、海堂くんのことを考えていた。
リーチが長くスタミナも瞬発力もある彼は、英二と同じようにただ前後左右にふるだけではダメだろう。
なんと言っても彼は1年生ながらにバギーホイップショットの応用球が打ててしまう。
確か貞治が"スネイクショット"と言っていたっけ。
桃の場合は、ダンクスマッシュという超パワフルなスマッシュさえ打たせないようにすればあとは力での勝負だったが…

前に海堂くんがスネイクショットを打っていたのを見た時のことを思い出し、スタミナ勝負かぁ…どう対処しようかなぁ…と考えていれば、突然鳴った学校のチャイムの音にビクリと肩が震えた。
やば、考え込みすぎて見直し半分も終わってない。


「ねね、名前ちゃん、最近男テニのレギュラー陣と打ち合いしてるよね!」
「そうそう!私この前不二くんと打ってたの見てたんだけど、2人共めっちゃかっこよかった〜!!」
「レギュラーの皆もかっこいいけどさ!名前ちゃんも、頭いいし副会長だしテニス上手いし、っていうかスポーツなんでも出来ちゃうしほんとにかっこいいね…!」
「帰国子女だから英語もペラペラだもんね!もーほんと、名前様!!って感じ!!」
「ね!女の子だけど、王子様みたい!」


テスト用紙を回収した先生が教室を出ていった途端、クラスの女の子達に囲まれた。


『え、あ、ありがとう…?』
「あははっ、なんで疑問形なの〜?そんなところもかっこいいけど!」
『…え?』
「いっそのことさ、名前様ファンクラブ作っちゃおうよ!」
『えっ』
「いいねそれ!私絶対入る!!」
『あ、ちょ、あの…』


囲んでおいて本人を置き去りにして話していく彼女達に空いた口が塞がらない。
いや、まぁ、大変嬉しいことではあるのだけど…
普段から女子の視線を真っ向に受けている彼らの気持ちがなんとなく分かった気がした。



* * *



「じゃあね、名前様!部活頑張ってね!」
「名前様、また明日!」
『う、うん、また明日…』


HRも終わり、廊下に出たところで昼前よりも人数が増えた女子達に手を振れば、彼女達はきゃあきゃあ言いながらとても機嫌が良さそうに歩いていった。
どうしてまた突然こんなことに…
はふ、と小さく一息ついてラケットバッグを背負い直し、くるりと踵を返せば少し先に壁に寄りかかって口元を手で隠す周助の姿が。
その横ではタカさんが苦笑を浮かべながらこちらを見ている。


『…見てた?』
「バッチリね、名前様」


そうにこやかに首を傾げる周助は、絶対わざとだ。


「大変だね…名前ちゃん」
「ふふ、すっかり人気者だね」
『嬉しいような、恥ずかしいような…』
「僕のクラスでも、女の子達がずっと名前の話をしてたよ」
「俺のクラスでもね」
『えっ!?』
「僕も入ろうかな?名前様ファンクラブ」
「ふ、不二…!?」
『やめて!?』


冗談、と笑う周助の言葉は冗談には聞こえない。
3人で並んで歩き出せば、別の教室からどんどんいつものメンバーが集まってきて、私達は皆でわいわい話をしながら部室棟へと向かった。



* * *



ウォーミングアップを終えたら、次は1年生のマラソンのタイム計測だ。


『走り終わった人から10分のクールダウンと休憩、それが終わり次第3番コートに入って自由に打ってていいよ。全員集まったら2グループに分かれて、交代で球出しとストローク練習。球出しの人は無理のない範囲で、なるべく相手の苦手そうなコースに球を出してね。ついでに相手を見極める力も鍛えましょう!』
「「「はい!」」」
『じゃあ皆、頑張ってね。行ってらっしゃい!』


合図と共に1年生達が走り出す。
本当なら私もこのマラソンに参加したいのだが、流石にこの足でこの距離を走るのは少しばかり厳しいところもあるし、国光と秀にも止められたので残念ながら見送った。
代わりにその場で私にも出来そうなストレッチや足の運動を貞治から教えてもらったので、1年生を見守りつつそれをこなす事にしている。

誰かが私の前を通り過ぎるたびにその子のタイム等を記入し、その合間にストレッチをしていれば、やがて先頭集団が最後の一周へとさしかかった。


「テメェにはっ…負けねぇ…!」
「んだとコラ…!上等だ…っ!」


先頭集団といっても、桃と海堂くんの2人だけなんだけど。
後半に差し掛かるにつれてバテ始める子達もいる中で、この2人だけは毎回毎回物凄いスピードで私の前を通り過ぎていく。


『ほんと、いいライバルだよなぁ。…あ、2人共また記録更新してる』


彼らの名前の横に同じ数字を記入し、少し遅れてやってくる1年生集団にあと1周頑張れーと声をかけた。


『はい、お疲れ様』
「は、はひっ…!」
「お…つか、さま、ですぅ…!」
「はぁ…ひぃ…」
『皆前回より早くなってるよ、よく頑張ったね。クールダウンはしっかりね』


最後の数人をしっかりと見届け、ドリンクを渡し、次の仕事に向けてコートに向かった。


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