部活が終わり、1年生達が片付け等をしているコートへ向かった。
ぎゃいぎゃい言い合いをしつつもなんだかんだ一緒にいる2人の姿を見つけ、喧嘩するほどなんとやら?と笑いながら近づいていく。


「桃、薫」


ぴたりと言い合いを止めた2人が同時にこちらを向いた。
そんな息ぴったりな姿にまた笑いが込み上げてくる。


「ッス…!」
「お疲れ様です、名前先輩!」
「お疲れ様。2人共、ちょっと時間貰っていい?」



* * *



不思議そうな顔をする2人を連れて、部室から少し離れた大きな木の下へとやってきた。
夕日によってほんのり影が落ちる草むらによいしょと座り、2人にも適当に座るように促せば、木の影から3つの人影がひょこりと生えた。


「なんスか?こんな所で」


桃の影がゆらゆらと揺れる。


「2人共、私との打ち合いどうだった?」


そう聞けば、ふたつの影が少し伸びるようにふらりと揺れ、ぴたりと止まった。


「「悔しいッス」」


言葉は重なり、2人の視線がぶつかった。


「っふふ、ほんとに仲良いねぇキミ達」
「「どこがッスか!!」」
「あははっ!」


じろ、と互いに睨み合う2人。


「私はね、ビックリしたよ。普段2年生の方を手伝うことが多いから、あんまり1年生のこと見れてないのは申し訳ないんだけど……2人共、私が思ってた以上に成長しててビックリした」


ふと顔を上げれば、橙色に染まる優しい光が世界を照らしている。


「2人は強いよ。貞治も言ってたけど、きっとすぐにレギュラージャージを着てコートに立つ日が来ると思う」
「「!!」」
「だから、今後を見据えてちょっと私の話をしようと思ってね。国光にも頼まれたし、私も同じ意見だったから」


横に座る2人を見れば、突然出てきた部長の名前に困惑している様子だ。


「最初に謝っておくね。黙っててごめん」
「…?」
「名前先輩…?」


そして私は、ぽつりぽつりと話し始めた。



* * *



「あれ?手塚、名前は?」


本当は知っていた。
だけど、あえて聞いた。


「桃城と海堂の所だ」
「あぁ。キミは行かなくていいのかい?」
「あいつになら安心して2人を任せられる」


それに、と恐らく彼女がいるであろう方を見る手塚。
…ねぇ、気づいてる?


「名前なら大丈夫だろう」


今のキミ、随分と優しい顔をしているんだけど。


「…フフ、そうだね」


驚いたよ。
キミにも、そんな顔が出来るなんてさ。



* * *



薫はなんとなく分かっていたが、桃がじっと静かに私の話を聞いていてくれたことには少し驚いた。
私の過去の話をするのはこれで3回目。
今までは思い出すことも嫌だったそれが、いつの間にか懐かしい思い出話のように口から自然と出ていくようになったのは、慣れか、それとも…彼らのおかげか。


「…と言うわけで、マネージャーになって現在に至るって感じかな」


話し終えた私が2人を見れば、2人はなんとも言えない顔でちらちらと私の右膝を見ている。
たった1年の差ではあるが、年下の桃と薫にこんな重苦しい話をしてしまったことは申し訳ない。
けれど、彼らも近いうちにレギュラー陣との練習に加わることになるだろうと考えれば仕方の無いことでもある。


「…あー、その…」


桃が言いにくそうに口を開いた。
そこから出るのは、慰めの言葉か、あるいは英二の時のように本気で打ち合ってしまったことへの謝罪か、もしくは黙っていたことへの怒りか。
話始めの息を吸う音に、どんな言葉でも受け止めようと目を閉じた。


「やっぱ…名前先輩はスゲェや」
「え…?」


桃の口から出たのは、想像していなかった言葉だった。
思わず桃を見れば、彼は困ったように眉を下げて笑っていた。


「膝にそんな爆弾抱えて俺達と打ち合ってたワケっスよね?」
「…しかも、本気の俺達と」


桃の言葉を引き継ぐように薫が言った。


「俺達も、まだまだってことだ」
「あぁ、そうだな」


何よりも先に自分自身の力不足を確信した彼らをぽかんと見つめていれば、ぷっと吹き出したのは桃で。


「なんつー顔してんスか。そりゃあまぁ…色々思うこともありますけど、俺達が名前先輩に負けたのは事実なんスから!」
「いや、まぁ…」
「部長も名前先輩も、俺達のことを考えてやってくれたってことは十分分かってます」
「2人共…」


っだぁ〜!と、大きな声を出した桃がごろりと後ろへ倒れるように転がった。


「何より、パワーで負けたことが悔しい!」
「…俺も、スネイクショットをあんな風に返されるとは思ってなかったっス」


先輩っ、と反動をつけて桃が起き上がり、薫へ視線を送った。
薫も桃の視線に答えるように小さく頷き、2人の視線は真っ直ぐ私へと向けられた。


「「次は負けませんから!!」」


じわりと胸が熱くなる。
いちプレイヤーとして私を見てくれているのであろうその言葉に、少し泣きそうになると共に、彼らの未来が明るいものであることを願った。


「私だって、まだまだ負けないよ」
「あっでも!無理だけはしないでくださいね!?」
「何かあったら、いつでも力になりますから」
「…ありがとう」


そして迎えた11月期校内ランキング戦。
ついに、彼らがレギュラージャージに腕を通す時が来たのだった。


back