5
まだたったの数日しか経っていないが、あの日から精市とはメッセージ越しに色々な話をした。
お互いの部員の話なんかもしたが、内容は全て当たり障りのない日常の話。
特に示し合わせた訳では無いが、私も精市も一応は敵校だということは忘れず、部員達のテニス関連の話は一つも出さなかった。
やり取りを始めてすぐ、メッセージはお互いに一日置きの長文のやり取りへと変わることとなった。
というのも、こちらはほぼ毎日部活があるし、向こうはそもそも病院だからあまり続いた時間話をすることは無く、私がふと交換日記みたいになりそうだねと何気なく送ったメッセージがそのまま採用されたのだ。
だから、それからは一日置きに精市から日記のようなメッセージが届き、私も一日置きに日記のようなメッセージを送っていた。
精市は文章を書くのがとても上手だった。
病院という限られた世界の中でも、彼の書く文章には様々な彩りがあり、なんだか私の方が明るさや元気をもらっている気分にさせてくれた。
その中でも、立海のテニス部員達が見舞いに来てくれたという内容が綴られたメッセージは読んでいてとても面白いものだった。
いつもより文章量が多くて、誰々がこんな事をして、こんな話をして、という文章には"ちなみに、今日も赤也は真田に怒られたんだって"という一文が添えられている。
赤也というのは、現在の立海レギュラーの中で唯一の1年生である切原赤也くんのことだ。
精市曰く、調子に乗るから本人には言ってないけれど、期待のルーキー、なんだそう。
そして真田というのは、精市と同じく2年で、テニス部の副部長を務める真田弦一郎くん。
どうやら赤也くんは入部したての頃から良く真田くんから怒られているらしい。
その他にも、現在のレギュラー数人の話をよく精市から聞いていた。
全員直接会った訳ではないが、見舞い話の前からメッセージで彼らの話は聞いていたし、精市の文章力のお陰か一方的に知り合いにでもなった気分である。
少し前に、いつか会ってみたいという文を添えた所、よく分からないが微妙に言葉を濁した返事が返ってきた。
* * *
冬休みの練習は、ほぼ毎日平和に始まり平和に終わる。
と言っても国光によってグラウンドを走らされる部員や、張り切った貞治による"乾汁冬休みスペシャル"なるものの餌食になる部員は相変わらず沢山いたけれど、それ以外は平和だったので全体的にも平和だということにする。
今日も平和に午前の部が終わり、お昼休憩のために皆でゾロゾロと部室へと戻った。
お弁当を出すついでにスマホを取り出せば、画面に表示された彼からのメッセージの通知に頬が緩む。
今日は、どんな事が書いてあるんだろう。
「ねぇねぇ」
なんとなく私に向けられたように思えた言葉に振り向けば、英二が少し首を傾げてこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「名前って最近、良くスマホ見てるよね」
いつも何見てるの?と聞いてきた英二に、よく見てるなぁと笑いが零れた。
「入院してる友達と、交換日記みたいなことしてるの」
「えっ、入院?」
「ちょっと複雑な病気でね」
そっかぁ〜…と後悔半分に眉を下げた英二に、そんなに気にしないで、と笑った。
「強い人だし、むしろいつもこっちが元気もらってるくらいだから」
「へぇ…?」
その相手が立海テニス部の部長であることは黙っておこうと思った。
なんとなくだが、彼の病気のことを大っぴらにするのは互いに良くないような気がしたから。
「名前にそんな友達がいたなんてね。青学の生徒、ではないよね?」
「うん、全然違うよ」
「病気の友達かぁ…早く良くなるといいにゃ〜」
「ふふ、ありがとう」
彼への返信に、その言葉も付け足そうと思った。
* * *
お昼休憩も終わり、午後の部活の真っ最中。
まだ昼間なのに徐々に暗くなっていく景色にどことなく嫌な予感を感じていると、やがて、持っていたバインダーに挟んでいたコート表にぽとりと雫が落ち、じわりと紙が滲んだ。
「えっ」
慌ててバインダーをジャージの内側に仕舞い込み、空を見上げれば、また一つ、二つと顔に雫が降ってくる。
「嘘!?雨!?」
「えぇっ!?降るなんて一言も…!」
隣のコートで試合をしていた英二とタカさんも揃って空を見上げ、慌てたような声を出した。
タカさんの言う通り、天気予報では今日は雨は降らないはずだったのに、徐々にどころか最初から大粒の雨が地面を叩き、コートが重く変色していく。
所謂ゲリラ豪雨だ。
「急いでボールとネットを片付けろ!」
「「「はいっ!!」」」
国光の声で部員達が慌ただしく動き出した。
「国光!とりあえずラケット持ってくよ!」
「すまない、頼む」
「名前、僕のもお願いしていいかな」
「勿論!貞治のも持ってく?」
「あぁ、頼んだ」
服の中に入れたバインダーを抑えるために片手が塞がっていた私は、今いるベンチに立てかけてあった国光と自分のラケットと、こちらのコートで絶賛練習試合中だった周助と貞治のラケットを抱え、一旦部室へと走った。
back