ドアを思い切り広げてロックをかけ、ラケットやバインダーを置いてまたコートへ戻る。
ざっと見た感じ、ボールやネットを片付ける人数は十分足りてそうだ。


『薫!そっちの皆の使ってないラケット、部室に持ってってあげて!』
「ハイ!」
『あと桃!こっち来て!』
「了解ッス!!」


1年が使っていたコートに走りながら声を張り上げれば、すぐに薫はラケットを回収し始め、桃はこちらに走り寄ってくる。


『1年生のラケット運ぶの手伝って!』
「おっけーっス!任せてください!」


邪魔なジャージの袖を捲り、ベンチ周りに無造作に置かれたラケットを拾っては腕に通す。
こういう時にスロートの穴は大助かりだ。


「よくそんな腕通りますね…」
『へ?』
「いや、俺…っつーか名前先輩腕細すぎじゃないッスか?」
『普通じゃない…?』
「えぇ…?でもその腕であの球打ったって考えると…恐ろしいッスね…」


あの球?どの球のことだろうか。
いやそんなことより、だ。


『とにかくほら、早く運んじゃわないと』
「あ、あと俺持てますよ!」
『流石桃!この量一度に運べて助かった〜』
「いえいえ!いつでも頼ってくださいよ!」
『ふふ、ありがとう』


部員全員のラケットも運び終え、また桃と共にコートへ戻ろうとすれば、慌てたようにボールが入ったカゴを乗せたカートを押してくる数人がこちらに向かってくる。
どうやらボールもネットも回収が終わったようだ。
私達は邪魔にならないように一足先に部室に戻った。

至る所を叩く雨音が響く部室は、既に部員達でパンパンだ。
最後にドアを閉めながら国光と秀が入ってきた。


『皆のラケット、適当に置いちゃったから各自で探して。ごめんねー』
「いや、助かったよ。ありがとう3人とも。…ほら、英二」
「サンキュー大石!名前も桃も海堂も、ありがと!」
「全然ッスよ!」
「いえ」
『大事な相棒だからね』


各部員からもお礼の言葉を受け取り、私も自分のラケットをバッグの上に置いていると、突然私の頭にふわりとタオルがかけられた。
視界の端に見える柄は、ベンチに置きざりにしたまま忘れていた自分の物だ。
あ、と振り返れば、


「しっかり拭いておけ。風邪を引くぞ」
『タオルのこと完全に忘れてた、ありがと』


同じくタオルを頭にかけた国光は、そのまま私を通り越し窓辺へ近寄って外を眺めた。
視界に映る外の景色は、土砂降りとなった雨のせいで若干曇ったように見える。


「すぐに上がるとは思うけど、この雨じゃあ上がったとしてもコートが使えないだろうね」
「…そうだな」


周助の言葉通り、やはりゲリラ豪雨だった雨はすぐに上がったものの、コートは所々に水溜まりを作り使えたものでは無い。
結局今日はここで解散となり、各自自主トレとなった。



* * *



見事な快晴となった次の日は、すっかりコートも乾いていていつも通りの練習が行われた。
今日は12月30日。
あっという間にやってきた今年最後の部活の日だ。
部活も終わり、片付けを終えて部室に戻ると、明るい顔の英二が私を呼んだ。


「名前!名前も行こ!」
『へ?』


うん?どこに?
突然のことにぱちぱちと瞬きを繰り返していれば、困ったように笑う秀がぽんと英二の肩に手を置いた。


「英二、突然すぎて名前ちゃんが困ってるじゃないか…」
『うん…?』


ごめんごめん、と明るく笑った英二は、笑顔はそのままで、


「初詣だよん!皆で名前も誘おうって話してたとこでさ!」


と言った。
初詣…去年はおじいちゃん達、おばあちゃん達と5人で行ったっけ。
今年もそのつもりでいたが……


『…行きたい、かも』


ぱあっと英二の顔が明るくなった。


「やった〜!これで全員参加!」


全員参加、というのは恐らくレギュラー面子のことだろう。
友達同士で行く初詣は初めてだから、今からとても楽しみだ。

1日は流石にそれぞれ家で過ごすだろうと、集まるのは2日ということになった。
帰ってすぐそのことを祖父母に話せば、2人は反対どころかとても嬉しそうに行っておいでと笑顔を向けてくれた。


『あともう一つ相談があって…』


私の話を聞いた2人は、また、勿論と笑顔で頷いてくれた。
それから神奈川にいる祖父母へと電話をかけ、暫く話した後に向こうからの了承も伝えてくれた。

自分の部屋に着いてすぐに精市とのメッセージ画面を開く。
今日は私の番だけど、先にちょっとイレギュラーなメッセージを送っても精市なら許してくれるだろう。
すぐ気づいてくれればいいんだけど…



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名前
イレギュラーメッセージ失礼します!
1日って病院にいる?
家に帰ったりしないなら、会いに行こうかなって思ったんだけど…

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メッセージにはすぐ既読がついた。



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精市
突然だったから驚いたよ
病院にはいるんだけど、午前中は家族がくるから午後でもいいかな?

名前
午後の方がこっちもありがたいかも!
何時くらいなら大丈夫?

精市
2時くらいはどう?

名前
おっけーです!
じゃあ2時に行くね

精市
新年明けてすぐに名前に会えるなんて思ってもいなかったよ
嬉しいな、ありがとう

名前
こちらこそだよ
何か欲しいものとかある?

精市
名前が来てくれるだけで十分
気にしないで

名前
そう言って貰えて嬉しいです
じゃあまた後でいつも通りメッセージ送るね

精市
楽しみにしてるよ

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