近場の公園で少しだけ話をしてから立海の皆と別れ、祖父母の家へと帰宅した。
短時間だったけど、凄く楽しくて濃い時間だったように思う。
増えた連絡先に頬を緩ませ、今日のお礼や感想を盛り込んだ精市へのメッセージを書き上げた。
結構長文になってしまったけど、大丈夫だろうか…

変な文章が無いか読み直しをしていると、まさかの精市からのメッセージが届いた。
今電話をしても大丈夫だろうかという内容のそれに、突然どうしたんだろうと思いながらも了承の意を返信すれば、すぐに電話がかかってきた。


『もしもし、どうしたの?』
「"突然すまないね。少し言い忘れたことがあって"」
『言い忘れたこと?』


何だろう、病院関連のことか、もしくは立海のメンバーのことで何かあったのかな。


「"俺達……俺の病気のことも、手塚には伝えるんだろう?"」
『あ…伝えない方がいい?』
「"いや、そうじゃないんだ。どうせいずれはどこかで噂になるだろうからね。俺の病気のことを伝えた上で、手塚に伝言を頼みたいんだ"」
『伝言…?』
「"変な気遣いは、嬉しいけれど無用だ。とね"」


俺達立海は、来年必ず全国三連覇を成し遂げる。
どこかで君達青学とは当たるだろうけれど、関東だろうが全国だろうが容赦なく越えさせてもらうよ。

今まで聞いた中で一番力強い彼の声に、どこかぞくりと背筋が波打った。
これがコートで見せる精市の気迫のほんの一部なのだとしたら。


「"互いに万全な状態でコートで会おう。その日を楽しみにしているよ"」


フフ、と精市が笑った。
先程まで感じていた緊張感がゆるりと解けていく。


「"初めて会った時の名前の言葉、借りちゃった"」
『あ…』
「"俺はあの言葉に凄く救われたんだ。だから、名前に免じて、というのも変だけど…どうか君達青学も、何事もなくまずは関東大会まで勝ち進んでくれ。決勝で会おう"」


小さく笑みが零れた。
友達だけど、でもコートではライバル同士。
そこに嫌な感情は何一つなく、むしろ清々しい気分だ。


『私達は負けない。勿論、立海にもね』


"今年、俺達は全国には行けなかった。だから来年こそは、皆で全国に行く。"


あの日の彼の言葉を胸に、


"勿論、苗字もチームの一員として。俺達と一緒に、全国の頂点を目指してほしい"


今年、私達は必ず全国の頂点に立ってみせる。


「"フフッ、楽しみだなぁ"」


それから数言言葉を交わし、電話は切れた。
見直し途中だったメッセージの最後に、必ず伝えておくという一文を追加して、送信ボタンを押した。



* * *



都内に戻り、迎えた次の日。
今日は皆と初詣に行く日だ。
友人との初詣は初めてで、ひたすらわくわくが止まらない。
場所は割と近場だったから、現地集合となっていたのだが…

まだ朝だし、流石に家を出てはいないだろうとスマホを手に取って国光とのメッセージ画面を開いた。
良かったら一緒に行かないかというメッセージを送れば、すぐに了承の返事と、12時半にあの交差点で、という文が返ってきてほっとした。

祖父母に見送られ、いつも帰りに別れる交差点まで来ればもうそこには国光が立っていて、足早に彼へと近づいた。
濃いブラウンのダッフルコートに黒いスキニーパンツを身にまとった彼は、いつにも増して良く言えば大人っぽく見える。
私に気づいた国光は、口元を埋めていた黒いストールマフラーから顔を持ち上げた。


『早いね…!』
「お前だって早いだろう。まだ約束の時間にはなってない」
『待たせるのも悪いなって思ったから…』
「それは俺だってそうだ」


相変わらずの真面目さに、誘ったのはこっちなのに、とどこか申し訳なくなる。


『そうだ、明けましておめでとう。今年もよろしく』
「明けましておめでとう。こちらこそよろしく頼む」
『にしてもごめんね、当日の朝に突然声掛けちゃって』
「いや、俺も声をかけようかと思ったから丁度良かった」


え、そうなの?と聞けば、国光は少し言いづらそうに視線をさ迷わせた。


「現地はきっと人が多いだろう。お前が一人で人混みに混ざるよりは、誰かと一緒の方が安全だと思ったんだが…余計なお世話かと思ってやめたんだ」
『つまり、心配してくれたってことですかね』
「そうなるな」


はぐらかされるだろうと思っていた返事はまさかの素直な言葉で、思わず気が抜けてしまった。
行くぞ、と国光が私から視線を切って歩き出す。
私は緩みつつある頬を必死に抑えて隣に並んだ。
というのも、今回私が国光に同行を求めたのにはちゃんとした理由があるのだ。

あのさ、と話し出す声に、自分でも緊張が混ざったのが分かった。
彼に立海のこと、精市のことを話したとして、どんな返答が来るんだろうか。
マネージャーが知らないうちに敵校の、しかもレギュラーメンバーと仲良くなっていたと知ったら…


「なんだ?」


ここまで築いていた信用が損なわれたらと思うと恐怖しかないが、言わないでいるという負い目を背負い、いつか知られた時のことを考えれば、黙っているより全然いい。
誰にも言ってなかったんだけど、と前置きをした。


『前にさ、病院に友達がいるって言ったの、覚えてる?』
「あぁ。何かあったのか?」


友達の身の心配を含んだようなその声に、小さく首を振った。


『その友達の名前はね、幸村精市』


隣で小さく息を漏らす音が聞こえた。


『知ってるでしょ?立海の、男子テニス部の部長さん』


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