一度止まった国光の足はすぐに、歩みを止めない私に追いついた。


「いつ、知り合ったんだ」
「私の信用問題にも関わるから、ちゃんと順を追って説明するよ」


全ての始まりは、私がおばあちゃんのお見舞いに金井総合病院に行った日。
そこの屋上で、私は偶然精市に会った。


「向こうが名乗ってくれたから私も名乗ったんだけど、私と私の父さんのこと知ってたみたいで。父さんのことを大先輩って言ってたから、もしかしてって思って聞いたら…やっぱり立海の生徒でさ」


そこから精市がテニス部の部長だということも知った。
そして私も、青学テニス部のマネージャーだということを彼に伝えた。


「そこでさようなら、とはならなくて、…まぁ、私のことも知られてたし、場所が病院だったこともあって色々話してさ」


私は過去の話を、そして、精市は現在の話を。


「これはあまり人には言わないで欲しいんだけど…精市、免疫系の難病で今年の10月に倒れたんだって」
「………」
「段々手足が麻痺していって、体の自由が奪われていくっていう病気。酷い時は呼吸にも影響が出るんだって」


もうテニスが出来ないかもしれない、そんな不安を抱えながらも、彼はただひたすらにいつかコートに戻るという決意を持っていた。
素直に強い人だと思った。
それと同時に、


「同じような体験をした身だからさ、なんか、敵なんだけど応援したくなっちゃって…」


苦笑して国光を見上げれば、なんと言っていいのか分からなさそうな少し困った顔をしている。


「それで、友達なら敵校だろうが関係ないよねって話になって、友達になったんだよ」
「…そうだったのか」
「そこからずっと、前英二に話した交換日記みたいなメッセージのやりとりが一日置きに続いてるんだけど、お互い友達として部員のことは話しても、部活内容とか情報に関わる話は一度もしてないから……そこは、私を信じてくれとしか言えないんだけど…」


なんならメッセージのやりとりを全部見せてもいい、と言えば、僅かに考えた素振りを見せた国光は、いや、と小さく首を振った。


「お前がこうして自ら話してくれたことが、俺の答えだ。驚きはしたが、その辺の心配はしていない」
「…嬉しいけど、そう言われちゃうと変なこと話してないか心配になっちゃうな」


やっぱり部長チェック入れた方がいい…?と尋ねた私に、しなくていい、とシンプルな返事が返ってきた。


「…あぁ、で、話が逸れちゃったんだけど」
「まだ何かあるのか?」
「本当に偶然なんだけど、昨日立海のレギュラーメンバーにも会ったんだよ」


昨日?と、ぴくりと国光の眉が動いた。
そういえばそこからか、と、精市のお見舞いに行くために元日は神奈川にある母方の祖父母の家にいたことを伝えた。


「病室で話してたら突然立海テニス部の人達が来てね…精市も来ることを知らなかったみたいで、あれはびっくりしたなぁ…」


病気のこともあるし精市だけだったら黙っていようかと思ったが、精市繋がりで立海のレギュラーメンバーとも友達になってしまった手前、流石に国光には全て伝えておこうと思った、と伝えれば、国光はなるほどと呟いた。


「立海の皆にも、精市の病気のことを含めて国光に伝えることは言ってある」
「…そうか」


精市の病気のことはまだ黙っておく予定だが、立海メンバーと友達になったことはタイミングをみて自分から皆に伝えようと思っていた。
だから国光からは何も言わないで欲しいことを言っておこうと思ったが、彼のことだしおいそれと口にすることも無いだろうと、言うのをやめた。
意図しない所で伝わってしまったらそれはそれで、その時はちゃんと私から説明をすれば、きっと皆も分かってくれる…と思いたい。


「でね、国光宛てに伝言を預かっておりまして」
「伝言?幸村からか?」
「うん。病気のことを知らせた上で伝えて欲しいって」


昨日の精市との電話を思い出しながら、口を開いた。


「"変な気遣いは嬉しいけれど無用だ。互いに万全な状態でコートで会おう。その日を楽しみにしているよ"」


口を閉ざした国光は、何を考えているのだろうか。


「青学も、何事もなくまずは関東大会まで勝ち進んで来てくれって。決勝で会おう、だって。関東だろうが全国だろうが、容赦なく越えさせてもらうけどね、って言ってた」


俺達は…と国光が小さく零し、そして顔を上げた。


「俺達は、どこが相手だろうと負けるつもりは無い」


笑いを零した私に、国光の視線が降ってくる。


「国光ならそう言うだろうと思ってさ。私達は立海にも負けるつもりはないよって言っといた」


ふっと僅かに国光の顔が緩んだ気がした。


「とまぁ、この話がしたくて今日突然誘ったんだよね」
「なるほど、分かった」


寒さの中に、柔らかな日差しが降り注ぐ。
ねぇ、と声をかければ、短い返事が返ってきた。


「初詣、何お願いするの?」
「勿論俺は」
「っちょストップ!」


慌てて言葉を遮れば、不思議そうな顔をした国光と目が合った。


「お願い事は簡単に人に言っちゃダメだよ!あっぶなー…」
「聞いたのはお前だろう」


む、と眉が寄るのを見て思わず、そうなんだけど、と苦笑が漏れた。


「初詣に限らず、願い事は話してもいい人とそうでない人がいる」
「…そうなの?」
「そうでない人は、主にその願いを妨害しようとする奴だ」
「ふーん…話していい人は?」
「同じような願いを持ち、願い主を心から応援してくれる人」
「…ほう?」
「だから、お前には話しても問題ないと思ったんだが」
「!」


彼の言葉に、胸の辺りがなんともむず痒くなってくる。


「どうした?」
「いや…はは…嬉しいなぁと…」


あまりにも国光が整然としたままでいてくれたお陰か、少し早くなった鼓動はすぐに静かになった。


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