国光の願いは勿論、皆で全国に行き優勝すること。
まぁそりゃそうだろうなと、大方予想していた通りだ。


「お前の願いは…いや、聞かない方がいいか?」
『私は…』


一瞬、内緒、と言おうか悩んだ。
けれど…
先程の国光の言葉を思い出し、彼には伝えても大丈夫だろうと思って首を振った。


『仲間や友人、あと欲を言えばこれから出会うテニス関連の友人が、皆悔いの残らない試合が出来るように』


最初は勿論国光や、恐らく他の皆と同じであろう、全国大会優勝!だったり、皆の無事を願うものだったりと色々候補があった。
でも精市に会って、立海の皆にも会って、自分の想いを振り返って、最終的にこの願いに落ち着いた。


『勿論、青学の全国優勝も願ってるけどね』


全国大会で優勝はしたい。
けど、それよりもまず、皆に悔いは残して欲しくないから。


「お前らしいな」
『そうかな…』
「俺はいい願いだと思う」
『…なら、良かった』



* * *



神社に近づくにつれて人の量も増えてくる。
隣にいる国光程ではないが、女子の中ではそこそこ身長がある方で良かったと思う。
神社の入口付近まで来れば、もう周りは人の山だ。


『凄い人だねぇ』
「そうだな…大丈夫か?」
『今のところは。一緒に来て良かったかも』
「…次から、こういう事があったら先に声を掛ける」
『あはは、心強いや』


行き交う人々の中に仲間の姿を探してキョロキョロしていると、


「手塚!」


聞きなれた声が少し遠くから聞こえ、国光が其方を振り返った。
隙間から様子を伺う様に頭をひょこりと出せば、片手を上げた秀が私にも気付き、ふわりと顔を綻ばせながらこちらに近づいて来る。
ちょくちょく通行人達に頭を下げながらのその様子がなんとも秀らしい。


「名前ちゃんも一緒だったんだね、良かった…!」
「あぁ」
『んふふ、お陰でぼっちで人混みに紛れずに済んだ』


新年の挨拶を交わし、他の仲間を探そうと私達はまた大量の通行人に目を配った。


「ここまで人がいるとは思わなかったよ…現地集合にしない方が良かったね」
『そう?人探しゲームだと思えば楽しくない?』
「…なるほど、人探しゲームか」


唐突に始まった、主に私と秀による人探しゲーム。
一番最初に口を開いたのは、遠くにまで目を凝らす私達ではなく、国光だった。


「乾と河村がいる」
「えっ」
『どこ!?』


僅かに顎を動かす国光の視線の先には確かに2人がいて、腕を組んで微動だにしない貞治の横で、タカさんがキョロキョロと辺りを見回している。


『えぇ〜、よく見つけたねぇ』
「お前達が見ていない方を見ていただけだ」
「まずは手塚の一勝だね。とりあえず2人と合流しようか。名前ちゃん、流されないように気をつけてね」
『はぁい』


私を気遣いながらも前進していく秀の後ろへ着いて歩き出せば、私の後ろからは国光がなんとも絶妙な距離で着いてくる。
前は秀が道を作ってくれて、後ろは国光が見守ってくれて、至れり尽くせりだ。
さながらボディーガードでも連れている気分である。
整った顔とか部活での活躍もあるんだろうけど、特に秀なんかは普段からも色んな人に優しさを振り撒いてるからそりゃモテるよな…

貞治、タカさんとも無事合流を果たし、そこから全員が集まるのは案外早かった。
改めて皆で新年の挨拶をし合い、ぞろぞろと拝殿へと向かった。

お参りも終了し、私達が次に向かったのはおみくじやお守り等が並ぶ授与所という場所。
やっぱり初詣と言えばおみくじだろう、皆の顔もどこかそわそわと楽しみであろうことが分かる。
そこそこ長い列に並んで、始まるのはやっぱりお願い事の話。


「皆、何お願いしたの?」
「そりゃ勿論、全国No.1ッスよ!」
「だよねぇ〜」


笑い合う英二と桃に、周助がくすりと笑った。


「僕は大体の人がそうお願いすると思って、皆の努力が実を結ぶようにってお願いしたよ」
『おぉ、周助っぽ〜い』
「ふふ、そうかな?」


真っ直ぐ進む国光や英二、桃とは違い、そっと横から支えてくれるような彼がしそうなお願い事だ。


「俺も全国優勝にしようかと思ったけど、やっぱり皆の健康が一番だと思ってそっちにしたよ」
「えっ、タカさんも!?俺も皆の健康をお願いしたんだ…!」
「え、大石も!?」


そうだ、横から支えてくれるような人はもう2人いたんだ。
これで俺達の健康運は爆上がりだにゃ〜と英二がけらけら笑う。
その流れで、乾は?と英二に聞かれた貞治は、少し考える素振りを見せてから、


「良い乾汁のレシピが思いつきますように」


皆の表情が固まった。


「なんてね」
「ちょっ…脅かさないでくださいよ乾先輩…!」
「フフ…ところで、海堂は何にしたんだ?」


どうやら貞治は内緒にしておくつもりらしい。
本当に乾汁関連のお願い事をしていないことだけ祈っておこうと思った。


「俺は…秘密です」
「はぁ?そう言われると逆に気になんだろうがよ!」
「ウルセェ。そもそも、願い事は人に話すもんじゃねェだろうが」


私と同じようなことを考えていたらしい薫にくすりと笑みが零れ、ついさっき国光から聞いたことをそのまま薫にも伝えた。


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