13


翌日、今まで以上に校内で私に向かってくる視線が増えた。
どこに行っても視線、視線、視線…
学校生活の中で休めるのは授業中(はちょっと微妙だけど)とトイレと、そして今現在、レギュラー陣と共に屋上で過ごす昼休みくらいじゃないだろうか。
それは国光も同じようで、あれからたった1日どころか約半日くらいしか経っていないのにどことなく老けたのでは…と思う程。


「随分疲れてるね、2人共…」


はは…と乾いた笑みを浮かべてタカさんが言った。


『視線がね…ものすごいの…もうね、すごいの……』
「重症だな」


冷静に分析しないで…
ノートに何かを書き連ねる貞治にそう突っ込む気も起きない。
丁寧に飲む気すらも起きなくて、ズズ…とパックのお茶をすすっていると、そういえばさー、と英二が話し出した。


「2人の話題と同じくらい、盛り上がってる話題があるじゃん?」
『え?』
「バレンタインだよ!バレンタイン!」


にまっと英二が笑った。
そう、今日は2月13日。
明日はバレンタインの日なのである。


「てことで名前!チョコちょーだい!」
『…すごい正面から来るね』


素直すぎる彼に思わず笑ってしまう。


「だって名前、言わないとくれなさそうじゃん!」
「えぇっ!?俺も名前先輩からのチョコ欲しいっス!!」


英二の言葉に乗せられた桃が大きく身を乗り出した。


『言われなくても、部活用にはちゃんと持ってくるつもりだよ』
「ほんとっ!?やりぃ〜!」
『ただ、クラスの子とかには一応生徒会役員だから持ってこないし、誰にもあげないって言っちゃったから、内緒にしといてね』


もちもち!と英二と共に桃も笑顔で頷いた。
てことで、と、こちらの会話をじっと聞いていた国光を振り返る。


『見逃してね、会長』
「どれだけ言ったところで、他にも持ってくる奴はいるだろう。お前だけ注意するわけにもいかない」
『そう言ってくれると思ってました〜』


何くれるの?とか、手作り?とか、色々聞いてくる彼らに全て内緒〜と返し、午後の授業に向かうためお弁当箱を片付けた。



* * *



相変わらず長いHRを終え教室を出れば、廊下では国光と周助が立ち話をしていた。
あの一件から恒例となってしまったレギュラーメンバーのお迎え。
部活があってもなくても、彼らはこうしていつも私のクラスのHRが終わるのを廊下で待ってくれている。
基本的に部活がある日はクラスが隣である貞治がいることが多く、部活がない日は帰り道が同じである国光がいることが多い。
最初は気恥ずかしくて断っていたのだが、それでもやってくる彼らに最近はもう諦めて日常の一部にすることにした。


『お待たせ』
「そんなに待ってないから大丈夫だよ。ね、手塚」
「あぁ」


圧倒的女子人気が高いこの2人と歩くと、いつも以上に視線が凄い。
そのキラキラした目が眩しくて目を細めたくなる。


「あっ!手塚くんと不二くんと名前様!」
「3人が並んでる所が見れるなんて…!!」
「今日もかっこいい〜…!」
「青学のトップ3だよね!」


青学のトップ3って何……
居心地が悪そうに歩く国光の隣で、周助はいつも通り温厚な笑みを携え平然と歩いている。
そんな視線を多方面から浴びながら、正門を出て少し歩いたところで当初の目的を思い出した私は、あ、と足を止めた。
今日は部活がないから、明日のために材料を買いに行こうと思っていたんだった。


「どうしたの?」
『明日に備えて買い物に行こうと思ってたんだよね』
「あぁ、バレンタインの?」
『そう』


生徒会でもあり誰にもあげないと言ってしまった手前、うちの学校の子に見られてしまっては困ると思って、少し遠出をする予定だった。
数駅離れた駅ビルに行こうと思っていたから、今日の私の帰り道は途中で方向が変わる。
その事を2人に話せば、周助がうーんと考えた。


「バレンタインの買い物について行く訳にもいかないね」
「なら、駅まで送ろう」
『えっ、いいよ途中までで!』
「帰りは何時頃だ。迎えに行く」
『いや、いいって…』
「ふふっ…」


保護者か、と突っ込みたくなる。
流石にそこまで子供じゃないぞ私は。


『送迎は大丈夫でーす』


はい進んでー、と、何か言いたそうな国光とくすくす笑う周助の背中を押した。



* * *



『結局駅まで来てもらっちゃってごめんね、ありがとう…』
「全然。いい散歩になったよ」


なんだかんだ本当に駅まで着いてきてくれた2人にお礼を言えば、周助がにこりと笑ってくれた。
本当に女神のような人だと思う。男だけど。


「帰りは何時だ」
『だから大丈夫だって…!』
「ふふふ」


さっきと同じやり取りに頭を抱えたくなるのを堪えて、国光の体をくるりと反転させれば、おい、という少し焦った声。


『じゃあ周助、後はよろしく』
「おい、」
「任せて。明日楽しみにしてるね」


じゃ!と2人に手を振り、止められる前に駅内へと走った。


「心配なのは分かるけど、あんまりしつこくし過ぎるのも良くないんじゃない?手塚」
「………」
「ふふっ、本当に…見てて面白いよ」
「…不二」
「心配なら、タイミングをみて電話かメッセージでも送ったらどう?さ、帰ろうか」
「…あぁ」


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