16
見学になった侑士に見守られながら、私達はコートに入った。
いやぁ、まさか氷帝レギュラー陣と打ち合いになるとは。
あまり変なことして目立たないようにしたいような、しっかり楽しみたいような、難しいところだ。
簡単な打ち合いだし、と、サーブは亮と岳人がジャンケンをしてこちらからのサーブになった。
握手をし、お互いが背を向けたところでそっと岳人に近寄った。
「基本、前衛任せていいかな」
「え、いいけど…」
「後ろは私を信じてくれると嬉しいな。さっきみたいに前で自由に動いてくれると助かる」
「…いいぜ。言っとくけど、そーなったらお前に球回って来ねぇからな?」
「んふふ、頼もしいね」
岳人がサーブの位置に着く。
私も前衛ポジションではなく、後衛のポジションに着いた。
「なるほどな。何話してっかと思えば、作戦会議だったわけか」
「行くぜ!亮!」
「おう、来いよ!」
パコン、という打球音と共に岳人が前へ走った。
同じコート内に、自分以外の人がいる。
ダブルスは久しぶりだ。
「ほらよ、名前!」
岳人を避けるように、球が真っ直ぐ私の方へ返ってきた。
同時に長太郎が私の前へ、その後方で亮が入れ替わるようにクロスのポジションへと走る。
この二人はダブルス専門なのだろうか、息がピッタリだ。
私は返ってきた球を真っ直ぐ長太郎の元へと打ち返した。
「は!?おい…!」
こちらを振り返って見ていた岳人が焦ったような声を上げ、後ろに下がろうと足を引く。
「岳人!そこにいて!」
「えっ…?」
岳人がピタリと足を止めた。
パン!と長太郎が球を打つ。
「あれ…!?」
決めたと思ったのだろう、彼の口からは困惑の声が漏れた。
彼の打った球は岳人の方へと飛んでいき、
「おい鳳!どこ打ってんだ、よっ!」
ぴょんと跳ねた岳人が、見事にそれを相手のコートに叩き込んだ。
自分以外の所へ球を運ぶのは久しぶりだったし、まだ相手の癖もそこまで理解出来てないから少しズレたけど、なんとかなったようだ。
岳人に前衛を頼んで良かった。
「おい長太郎!?どうしたんだお前…!」
「い、いや、ちゃんと2人の間を狙ったはずなんですが…」
おかしいな…とその場でフォームの再確認をする長太郎にくすりと笑い、岳人に近寄った。
「ナイスボレー」
「へへっ、俺にかかればこんなもんだぜ!」
次は長太郎がレシーブ、そして亮が前に出ている。
サーブと共にまたしても岳人が前へと駆けた。
ラケットを構えた長太郎の目はしっかりと私を見ていて、どこか探るような目でこちらに球を打ち返してくる。
あの違和感の正体に、彼はいつ気づくだろうか。
先程と同じく、亮と長太郎は場所を入れ替わり、私の前で亮がポーチに出るタイミングを伺っている。
今はサポーターをしていないからあまり長引かせたくないし、申し訳ないけど岳人を信じて私の分まで動いてもらおう。
ギリギリポーチに出そうな位置に返球すれば、こちらの思惑通り、やはり亮が動いた。
「貰った!」
にやりと口端を上げ、亮のラケットが球を捉える。
が、
「なっ…!?」
先程の長太郎と同じく、思った方向へ飛ばなかったのだろう。
驚いた亮がボールを見上げた先で、岳人が高く飛んでいた。
「おらよっ」
軽い身のこなしから放たれたボールは、ネット際のサイドギリギリに跡を残して跳ねていく。
「宍戸さん…!」
「…なんだ、今の…」
その後も、さながら英二のようなアクロバティックプレイで岳人が決め球を放ち、カウントで表せばストレートで私達の勝利となった。
なんとも言えない表情を浮かべる2人と握手を交わし、侑士の待つベンチへと戻る。
「てかよ〜、なんだよお前ら。あんな打ちやすい球ばっか返してきて」
「いや、打ったつもりは…」
「なんというか、返そうと思ってる所に球が飛ばなくて…」
「あぁ…」
ラケットをしまう私の横で行われている会話に小さく笑いが零れた。
「答え合わせ、したろか?」
その声に顔を上げれば、怪しく笑う侑士が私を見下ろしていて。
「なぁ?名前ちゃん」
おっと、まさか気づいていたとは。
* * *
侑士の説明は、それはもう的確ドンピシャだった。
たった数球で見抜かれてしまうとは、氷帝レギュラー恐るべしだ。
「えっ、てことは?俺が打ちやすいような球を返させるように打ってた…あれ、ちょっと頭がこんがらがってきた…」
「ふふ、合ってるよ」
「マジかよお前……マジかよ…」
「名前さん、凄いですね…!?」
「でもこんなにすぐ見破られちゃうとは思ってなかったな…凄いね、侑士」
凄いのは名前ちゃんやろ、と侑士は片眉を下げて笑った。
「まず第一に、あんなんするには相手の癖を知っとかなあかん。同時に、それを可能にさせる柔らかい手首も必要や。うちのジローと同等か、それ以上のな」
「じろー?」
「ネットプレイが得意な、ジローっちゅーのがおるんや」
「いっつも寝てて、滅多に起きねぇんだけどな」
「へぇ…?」
彼もレギュラーなのだろうか。
いやでもいっつも寝てるなら練習は…どうなんだろう?
「じゃあ、名前さんは最初の俺達の打ち合いだけを見て癖を掴んだってことですか…?」
「そう、かな?流石に完璧とまではいかなかったけど、そこは岳人を信じてたからね。しっかり返してくれて助かったよ」
「…へへ、さんきゅ」
あ、可愛いかもしれないぞこの子。
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