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「あんだけの事が出来るってことは、名前って相当上手いんじゃねぇの?なんで女テニに入んなかったんだよ?」


再度来てしまったその話題。
まぁ、気にはなるよね…
ここまで来たらもう、先に言っておくのもアリなのかもしれない。


『…ごめんね、いつかバレる日が来るだろうから、先に言っとく』


ん?と顔を見合せた彼らは、改めて私を見た。


『青学男子テニス部のマネージャーなんだ、私』


4方向からの驚きの声に苦笑した。
そりゃそういう反応にもなるだろうね…


「てっ、敵じゃねぇか!!」


岳人がびしりと私を指さす。


『あはは、そうなるね』
「笑い事ちゃうで名前ちゃん…こればっかりは流石に俺も分からんかったわ…」


顔を覆う侑士の横では、亮と長太郎ペアが仲良く呆然とこちらを見ている。


「ど、どうしよう宍戸さん…!俺、うちの部のこと話しちゃいました…!」
「なんなら、一緒にテニスまでしちまったぜ、俺ら…」
「跡部部長にバレたら…怒られますかね…」
『ま、まぁ、悪用する気はないから…』


ていうか!!と岳人が侑士に詰め寄った。


「元はと言えばお前が変なこと言って連れてきたんじゃねぇか!」
「嫌やなぁ。岳人やって、名前ちゃんと楽しそうにテニスしとったやんか」
「うっ…まぁ、楽しかった、けどさぁ…!」
『んふふ、私も楽しかったよ』


そう言えば岳人は、うぐ、と言葉を詰まらせ、きょろりと視線をさ迷わせた。


「にしても、青学にはこない別嬪さんのマネージャーがおったなんてなぁ。テニスも上手いし、羨ましいわ」
『はい…?』
「でも名前ちゃん、今年の都大会も関東大会もおらんかったやろ?おったらどこかで見とるはずやし、忘れるわけあらへんし」
『あぁ、それは…』


関東大会後から始めたマネージャーだと伝えれば、彼はなるほどと納得したように頷いた。
と、5時を知らせる鐘の音が辺りに響く。


『わ、もう5時じゃん!そろそろ帰んなきゃ…!』
「ホンマや。なんや今日は時間が経つのが早いな」


慌ててラケットバッグを背負い、何気なくサイドポケットから取り出したスマホを見れば、数件のメッセージと着信の通知が目に入る。
メッセージは良くあるが、着信…?と思い履歴を確認すれば、同じ名前での着信が3件入っていて。
学校終わりにそのまま来たから、サイレントのままだったのをすっかり忘れていた。


『やば…』
「どした?」
『いや、』


タイミングがいいのか悪いのか、丁度スマホの画面が彼からの着信を告げた。


『ごめん、ちょっと電話出てくる…!』


彼らから離れながら、応答ボタンを押した。


『も、もしもし』
「"今どこにいる"」


言い終わらないうちに聞こえてきた彼の声は、いつもより早くて低い。


『えーっと…ストリートテニスコート…?』
「"買い物に行ったんじゃなかったのか?"」
『いや、そうなんだけど…買い物終わった後に成り行きで…』
「"?他に誰かいるのか"」
『えーと、ですねぇ…』
「"名前"」
『…あの…怒らない?』
「"…返答次第だ"」
『絶対怒るじゃん…』
「"俺に怒られると思うような相手と一緒にいるということか?"」
『いや、…どうなんでしょうか…』
「"…怒らないから言ってみろ"」
『…あの…氷帝の、男子テニス部のレギュラーの方が4人ほど…』
「"氷帝、だと…?"」
『氷帝です…』
「"……はぁ…"」
『怒ったな…?』
「"違う、呆れているんだ"」
『ほぼ一緒じゃんか…』
「"とにかく、早く帰れ。駅まで迎えに行く"」
『いやっ、だいじょ』
「"いいから早く帰って来い。話は後で詳しく聞かせてもらう"」


珍しく言い逃げのようにぷつりと通話が切れた。


『…はぁ……』


スマホを耳から離し、ため息と共にそれをポケットへ仕舞えば、ラケットバッグを背負った岳人がひょこりと顔を覗き込んでくる。


「なになに?彼氏か?」
『違うよ…』


もはや保護者だよ…
頼んだ覚えはないけれど…


「名前ちゃん、彼氏はおらへんの?」
『いないよ…』
「へぇ?ええ事聞いたわ」


何がですか…


『とにかく早く帰んなきゃだ…』
「さっきの駅まで送るで。道分からへんやろ?」
『ごめん…助かります…』
「連れてきてもうたのはこっちやしな。気にせんとき」


他校のマネージャーだと知ったにも関わらず、来た時と同じく4人とも一緒になって私を駅まで送ってくれた。
しかも連絡先まで交換してくれて、またテニスしよう、と笑顔を向けてくれた。
氷帝って字面だけ見て勝手に冷たそうなイメージを持ってたけど、全然そんなことないや。
4人ともめっちゃ優しくていい人達だ。


『突然だったけど、楽しかったよ。ありがとう』
「おう、次は負けねぇぜ?」
「ついでに、来年も青学には負けねーよ」
『青学だって、来年は負けないよ』
「会場で会うのが楽しみですね」
『ふふ、4人とも、レギュラーの座は死守してね』
「ったりめーだろ?譲る気なんてさらさらねぇよ」
「ほなら、気ぃつけて帰りや、名前ちゃん」
『うん、またね』


見送ってくれる4人に手を振り、改札を抜ける。
階段を登る前にちらりと振り返れば彼らはまだそこにいて、もう一度手を振ってから階段へと足をかけた。


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