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さて、問題はここからだ。
スマホを取り出しメッセージ画面を開けば、国光の名前の横にEという数字。
16時に、気をつけて帰るように、というメッセージ。
そして16時半に、まだ帰っていないのか、というメッセージ。
その10分後に不在着信、そして、どこにいる、というメッセージ。
そのまた10分後に不在着信が2件。
プラス、携帯本体への着信履歴が3件。


「………」


流石に多くないか…?
あの一件以来国光が、なんというか、物凄く心配性というか過保護というか…国光ってこんなキャラだっけ…
悪い意味ではなく、もっと他人を気にせず我が道を行くような人だと思っていたのだが、仲良く(?)なるとどうやらそうでもないらしい。
心配してくれているのは分かるし有難いのだが、そこまでしてくれなくても…もっと自身の時間を大事にしてくれ…
なんにせよ彼のことだからどうせもう駅付近にいるのだろう。
今電車に乗ったからすぐ着くよ、とメッセージを送れば、すぐに既読が着き、分かった、と返事が来た。

駅に着いて階段を降りれば、少し遠くの改札の向こうでいつも通り腕を組み仁王立ちをしている彼の姿が目に入る。
普段と違う所と言えば、制服ではなく私服だという所だけだ。
初詣の日にも思ったが、ニットネックにシンプルな黒いロングコートを着た彼は、スタイルもいいしその綺麗な顔も相まっていつもより数倍大人っぽく見えて、正直かっこいいと思う。
道行く女性達もチラチラと彼を見ているし、なんだか話しかけづらい気もする。
改札を通る私に気づいた国光が、組んでいた腕を解いてこちらに歩いて来た。


「お待たせしました…」
「今来たところだ」


あぁ…周りの視線が痛い…
主に女性からの視線から逃げるように歩き出せば、国光も私の隣に並んで歩き出した。


「重くないか?」
「全然。大丈夫だよ」
「そうか、ならいい」


迎えに来てもらって流石に荷物まで持ってもらう訳にはいかないから、なんとしてでもラケットバッグは死守せねば。


「で?」


たった一文字の言葉が、今までの事を全て話せ、と脳内変換される。
これだけで分かるって何気に凄くないか、私。


「ちょっと長くなるんですけど…」


端折るとあとが怖いので、歩きながら一部始終、全てを伝えさせて頂いた。
話し終わる頃にはもういつもの交差点まで来ていたのだが、やはり国光は真っ直ぐ私の家の方へと足を進めていく。


「立海の次は氷帝か」
「はい…」
「で、今回はサポーターも無しに、あの氷帝レギュラーと打ち合いをしたのか」
「でも1ゲームだけだし…!ダブルスだったから、そんな動いてないし…」
「そのせいで、メッセージにも電話にも気づかずにいた、と」
「……そうです…」



はぁ、と何度聞いたか分からないため息の後に、ちら、と国光が私を見た。


「またお前に何かあったのかと、気が気じゃなかった」
「それは…ごめん…でも、心配しすぎだよ。嬉しいけどさ、もっと自分の時間を大切にして…?あそこまでされたら逆に国光のことが心配になっちゃうよ」
「俺が心配…?」
「だって、少なくとも最初にメッセージを送ってくれてから今まで、ずっと私のことを心配してたんでしょ?人の事を心配してる時って、自分の事に身が入らないのは私もよく分かってるし…」
「………」
「私のせいで国光の時間を奪いたくないの。心配しなくても、助けて欲しい時は助けてって言うよ」


疑うような目に見下ろされ、苦笑が漏れる。


「常に心配されるよりは、助けてって自分から言った方がいいもん。国光だって、その方が色々と安心出来るでしょ」


少し思案した彼は、そうだな、と小さく言った。
これで少しは彼の過保護具合が緩和されるといいのだが。
いつの間にか家の前に着き、私達は足を止めた。


「でも、心配してくれてありがとう。他に何か聞いておきたいことある?」


とりあえず彼の不安要素を少しでも消せたらとそう聞けば、


「氷帝のレギュラーと言ったが、誰がいた」


と、すぐに質問が返ってきた。
確かに、ライバル校だし、気になるところではあるだろう。
下の名前で呼んでたから…苗字は…


「えっと、忍足くんと、向日くん、宍戸くん、あと…鳳くんだ」
「忍足か…」


あぁ、やっぱり知ってるんだ。


「跡部という奴はいなかったのか?」
「跡部…たしか氷帝の部長だよね?名前は何回か聞いたけど、本人はいなかったよ」
「そうか。ならいい」
「…?」


何かあるのだろうか。
まぁお互い部長だし、一番気にする相手なのだろう。


「あら?」


カチャリと聞きなれた玄関のドアの音。
そして、突然聞こえた声に国光と共に玄関を振り返れば、おばあちゃんが少し驚いたようにこちらを見ていた。


「あ、おばあちゃん、ただいま」
「おかえり名前ちゃん。そちらの方は…?」


いそいそと玄関から出てきたおばあちゃんが、国光を見てから、私へ視線を戻す。


「私がマネージャーやってるテニス部の部長だよ」


そう言えば彼女は、あら、まあ!と嬉しそうに顔を綻ばせた。


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