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「初めまして。彼女にはいつもお世話になっています。青春学園テニス部部長の手塚です」
「あらあら、これはご丁寧に。名前の祖母です」


お互い深々とお辞儀をする2人に思わず苦笑した。
国光なんて、中学生ながらにやり取りが大人のそれだ。


「手塚さんて…もしかして国一さんのとこのお孫さんかしら?」
「祖父をご存知なんですか?」


やっぱり!とおばあちゃんが嬉しそうに笑った。


「家が近いでしょう?ここには長く住んでるから、色々とお世話になってるのよ。お孫さんがいるのは知っていたけど、まさか部長さんだったなんて」


どうやらうちのおじいちゃんと国光のお爺様が仲が良いらしい。
なんとも不思議な偶然だ。


「名前ちゃんから話は聞いていたけれど、やっぱり、とっても誠実そうな方ね」
「お、おばあちゃん…!」


ちら、と国光が私を見てきて、慌てて視線を逸らした。
頼むから余計なこと言わないで…!!


「…彼女から話を?」


頼むから会話を広げないで…!!


「えぇ。いつも名前ちゃんがお世話になっているみたいで」
「いえ、こちらこそ」
「ちょ、ちょっと待ってって…!」


話を遮るように両手を伸ばした私に、いいじゃないの、と朗らかに笑うおばあちゃん。


「ずっと、一度会ってお礼を言いたかったのよ」
「お礼、ですか…?」


だめだ、凄く家の中に入りたい、今すぐに。


「あの日…名前ちゃんが嬉しそうに帰ってきた日のこと、今でも覚えてるわ。それからずっと、毎日楽しそうに学校に行くのよ、この子」


どうすることも出来ずに恥ずかしさから俯くしかない私の上で、会話が続いていく。


「この子がまたテニスをするようになったのは、貴方達のお陰なのよ。本当にありがとう」


まるで自分の事のように嬉しそうに話すおばあちゃんにはそれはもう感謝しかないけれど、けれど…!
少しの静寂の後、国光は静かに、いえ、と否定の言葉を口にした。


「彼女がまたラケットを握ったのは、彼女自身が強かったからです。自分達が何かしたわけではありません。…それに今は、自分達の方が彼女に助けられています」


…よくもまあ、そんな恥ずかしい言葉が口から出てくるものだと感心してしまう。
黙ってしまったおばあちゃんの様子をそっと上目で見てみれば、彼女は両手を口に当てて驚いたように国光を見ていて。


「…あらまぁ、若いのに…本当に、よく出来た子ねぇ」
「いや…本心を言ったまでで…」
「あの、恥ずかしいのでその辺で止めてもらっていいですか…」


冬なのに熱くなった顔を片手で覆いながら絞り出すように言えば、おばあちゃんはふふふと可愛らしく笑った。


「手塚さん」
「はい」
「良かったらお夕飯食べていかない?」
「えっ!?」


流石に国光も驚いたようで、あ、いや、と言葉を濁らせる。


「こっちに来てから名前ちゃんが初めて家に連れてきてくれたお友達だもの。色々学校のお話だって聞きたいじゃない?」
「いや、連れてきたというか…」


送ってもらったというか…


「折角のお誘いですが、突然お邪魔するわけにはいかないので…それに、もう母が夕食の支度をしていますし…」
「それもそうねぇ…」


突然すぎたかしら、とおばあちゃんが笑う。
血は繋がっていないけど、こういう所は私の母さんにそっくりだ。


「なら、また日を改めて、いつでもいらっしゃい。他の部活のお友達も一緒にね」
「…ありがとうございます。機会があれば、是非」


ぺこりと一礼した国光が私に向き直る。


「では、また明日」
「…また、明日…」


来た道を引き返していく国光を見送り、やがてその姿が見えなくなったところでおばあちゃんが小さく笑った。


「ところで名前ちゃん」
「うん?」
「ボーイフレンドかしら?」
「ちっ…がうよ…!!」
「あらそうなの?素敵な方なのに」
「それは……まぁそうだけど…」


夕食後、バレンタインのお菓子を作る私の横で、おばあちゃんがそれはもう楽しそうに色々と手伝ってくれたのだった。



* * *



次の日、昨日作ったお菓子達をこっそりラケットバッグの奥に隠すようにしまって家を出た。
本当は立海の皆にも渡したかったけど、今日も明日も部活があって向こうまで行く時間が無いし、明後日からはテスト期間だし、そもそも日が空いてから渡すのもなぁと思って断念してしまった。
精市とも例のやり取り上でこの話はしていて、来年に期待しているという言葉が添えられた返事が返ってきていた。
来年は精市達にも渡せたらいいなぁ…なんて考えながら歩いていけば、いつもの交差点にはいつもの彼。


「…おはよ」
「あぁ、おはよう」


昨日の今日でなんとなく顔が合わせ辛い。


「…お前のお祖母様は、なんというか…やはり似ているな、お前に」
「うん…?」
「いや、なんとなく思っただけだ」


気にするな、と言って国光は歩き出す。
お母さんとおばあちゃん達2人が似ててめちゃくちゃ仲がいいのはよく知ってるけど、私が似ているだろうか…
まぁ向こうのおばあちゃんの娘の娘ではあるし、必然的にこっちのおばあちゃんにも似るところがあるのかもしれない。
私には分からないけど…

他愛もない話をしながら部室に向かう。
流石に朝早いからか、女の子達はいないようで安心した。
ふと思い出すのは昨日出会った氷帝の4人。
彼らも思い返せば顔立ちのいい人しかいなかったし、今日は忙しくなってそうだな…
…あぁ、そう言えば立海の皆も…
テニス強豪校のレギュラーってなんでこんなに顔が良いのが揃ってるんだろう、七不思議の一つにならないかなこれ。


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