21.5A
と思えば、なんか赤也が急に彼女に試合を申し込みそうになるわ、そこからの流れで彼女が青学テニス部のマネージャーだって知ることになるわで、やっと落ち着いてきた心臓がまた煩くなった。
幸村君と彼女の出会いやメッセージのやりとりなんかにも驚かされたけど、やっぱショックだったのは彼女が青学に通っていたこと。
なんで立海じゃねぇんだよ、親と一緒じゃねぇのかよ……という俺の思いは自然と口から零れていたようで、察せと少し口調がキツくなった幸村君にはっと口を抑えそうになった。
でも彼女はそんな幸村君を止め、
「私の膝の故障については、ご存知でしょうか」
その言葉に、俺達は思わず顔を見合わせた。
知ってるも何も、その故障の原因が知りたくてずっと探してんだよ、なんてこの流れじゃ言えなくて、ぎこちなく頷くことしか出来なかった。
自暴自棄、と彼女は言った。
その自暴自棄の原因になった"事故"については語られなかったけど、彼女の様子からしてやっぱりいいものではなかったんだろう。
と同時に、この様子だと幸村君は何かを知っているんだろう、とも思った。
幸村君に話したんだとすれば、幸村君と同じく病気…?
いや、病気で膝ピンポイントの故障なんて聞いたことがない。
何かしらがあって、テニスが出来なくなるような怪我をしたのには間違いなさそうだけど…
なんてもんもんと考えていれば、いつの間にか仁王が彼女に片手を差し出してお友達になってくれなんて言ってて、慌てて俺も仁王に続いた。
仁王が自ら女子と友達になろうとするなんて珍しいこともあるもんだと思ったけど、相手が彼女なら納得だ。
なんてったって仁王もたまに彼女のプレイ映像をちらちら見てたりするくらいだし。
そこからの時間はあっという間だった。
名前は、何度も見た数々の映像通りの人物であり、そして少し違った。
時に冷静で、時に核心を突くようなツッコミをして、時にけらけらと楽しそうに笑う。
今までは平面上での存在だったけど、どう見てもその辺によく居そうな普通の女子。
…いや、顔は可愛いしスタイルも良さげだしよく居そうってのはちょっとちげぇか…
そもそも、なんてったってうちにいるような女子達とは全く違う。
たぶん名前は、見た目や肩書きで人を選ぶことをしないだろうってことはすぐに分かった。
その人をその人として接する。
当たり前のことのように思えるだろうけど、うちじゃそんなことはほぼないに等しい。
どいつもこいつも、見た目がかっこいいやらテニスが上手いやらで気持ち悪いくらいに綺麗な笑顔と甘ったるい声を向けてくる。
そりゃまぁ……お菓子とかくれるから、一概にやめろとは言えねーんだけど…
「あーあ…名前さんが立海のマネージャーだったらなぁ…」
「お前…それしか言えねぇのか…気持ちは分かるけどよ」
あの日名前と別れた後の帰り道、ずっと赤也はこんな感じだった。
もう誰も返事をしなくなっても尚、ジャッカルが赤也の相手をしてやってるからだと思うのは俺だけか。
「だって!美人だし優しいし!!テニスだって上手いんでしょ?ね!丸井先輩!」
「えっ…あぁ、まぁ…そうだな」
急に振るんじゃねぇよ…なんて思いながらも、やっぱそれは俺も同意見ではある。
名前から聞いた話じゃ、長時間出来ないだけでテニス自体は出来るらしいし、今は青学のマネージャーとして向こうのレギュラー陣相手に打ち合いなんかもしてるらしい。
…ずるいなんて思って……いや、ずるい、くそ羨ましい。
「丸井はともかく、赤也が女子に懐くのは珍しいな」
「おい柳、ともかくってなんだ、ともかくって」
「んー、なんつーか、名前さんは他の女子とは違うんスよねぇー」
生意気な後輩によってサラリと流された俺の文句に、当然ながら返事は返ってこない。
「柳生、おまんはどう思う?」
ふと仁王に聞かれた柳生が、私ですか?と僅かに眉を上げ、朗らかに微笑んだ。
「他の方と違うというのは切原君と同意見ですよ。久しぶりに、女生徒と落ち着いて話が出来ましたし」
「…もし全てがあいつの思惑だとしたら?」
「なっ…仁王君、それは彼女に失礼ではないですか」
「フッ、冗談じゃき」
「……貴方って人は…」
分かりにくいやり取りだとは思うけど、柳生は勿論、仁王も名前のことは良く思ってる。
まぁ仁王に関しては元々隠れファンみたいなもんだったしな。
病院を出てすぐのやり取りじゃ、柳が名前に対して好感を持ってたのも分かったし、っていうか柳も元々名前のことを見てたんだったっけなそういや。
「…で?ずっと黙っとるが、おまんはどうなんじゃ?弦ちゃん」
「お前にそう呼ばれると虫唾が走る…」
「なら、名前はええんか?」
「………」
…ま、これが答えだろうな。
クククと笑う仁王を真田がじとりと横目で睨み、すぐに視線を戻した。
「…悪い気はせん」
「ほーう?」
「仁王、お前は明日のメニュー全て倍だ」
「赤也も一緒ならいいぜよ」
「良いだろう」
「はぁ!?ちょっ、仁王先輩何言ってんスか!?」
「連帯責任ナリ」
「何のっスかぁ!?」
ノートを片手に、精市へのいい土産話が増えそうだ、と笑う柳に、暫く自分の言動には細心の注意を払おうと思った。
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