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バレンタインが終わると共に、やって来るのは学年末テスト。
一週間後にテストを控えた今日からは、テスト週間ということで部活動は全面的に休止となる。
勿論それはテニス部も例外では無い。
まぁ建前上休止ということになっているだけで、普段と変わらずテニスコートやグラウンドは使用可なんだけど。


「あ〜あ、今日から部活休みかぁ〜…」
「でもコートは使っても大丈夫だし、勉強に疲れたら息抜きに打ちに行けばいいよ」
「勉強なんかよりテニスしたいよぉ〜」


どんよりと落ち込んでいる英二を始めとした勉強嫌い組に、ふとアイデアを思いついた。
英二、と呼べば、つまらなさそうに瞳を暗くさせた彼からは、何ぃ〜?と気の抜けた返事。


「この前は出来なかったからさ、英二さえ良かったら今日の放課後部室で勉強会でもする?」
「うげ…」
「さっき秀も言ってたけど、コートは使っても大丈夫なんだしさ。部室で勉強して、たまに休憩がてらテニスしたらいいんじゃない?私も打ちたいし」


そう言えば、英二は途端に目をキラキラさせて私を見る。


「名前…!ナイスアイデア!それならまだ頑張れるかも!」
「ふむ、それもいいかもしれないね。俺も参加していいかな」
「ほんと?物理で分からないところがあった時に貞治がいてくれたら凄い助かる!」
「名前に関しては、こちらが教えてもらうことの方が多そうだけどね」
「そんなことないと思うけど…」


そんな話をしていると、名前先輩、と珍しく薫から声がかかった。


「俺もいいっスか。理数教えて欲しいんスけど…」
「え、薫から頼ってくれるなんて嬉しい…!勿論だよ!」


続くように桃が、俺も英語教えて欲しいッス!!と手を真っ直ぐに伸ばし、そこからはすぐに国光以外の全員から参加の意思が伝えられた。
国光はどうするんだろう。
彼のことだから俺はいいとか言いそうだけど……とちらりと見れば、ぱちりと目が合う。
意表をつかれたような顔をする彼に首を傾げれば、


「俺も参加しよう」
「え、ほんと?」
「図書室でやろうと思っていたが、部室の方が気が楽だ」
「それは…確かにそうかもしれないね…」


なんだかんだ今日の放課後も部室に全員集合だ。
思えば、こんなにわくわくするテスト週間は初めてかもしれない。



* * *



そして放課後、貞治と共に部室に向かえばやはり既に全員揃っていて、勉強用に長机や椅子がしっかりと並べられていた。
少し驚いたのは、彼らが既にジャージに着替えていたことだ。
しかもあの国光でさえいつも通りジャージに着替えている。
皆しっかりラケットも持って来ているみたいだし、元からテニスする気満々じゃないですかこの人たち。
かく言う私もラケットやジャージは持っているけれど。


「名前も着替えてきたら?」


周助の言葉に、あ、と気付く。
女テニの部室のスペアキー返しちゃったんだ…


「ごめん、女テニの部室の鍵返しちゃったからここで着替えていい?」


そう言いながら床に置いたラケットバッグのファスナーの音を立てれば、えっ!?と各方面から驚きの声。


「大丈夫大丈夫、上は中にシャツ着てるし、下はスカートのまま履けるから」


取り出したジャージをバッグの上に置き、彼らの返事を待つことなく制服の上着を脱げば、途端に周助以外の皆がすごい勢いで一斉に後ろを向いた。


「え…いや、そんな気にしなくても大丈夫なんだけど…」


ワイシャツのボタンを外しながら言えば、クスクスと笑う周助に、こほんと咳払いをしたのは国光。


「…名前、着替えるなら俺達は一旦出る。せめて返事を待ってくれ…」
「だから中に着てるってば。流石に肌晒すってなったら出てもらうけど」
「っ当たり前だ…!」
「あっはは、あー面白い」


中にシャツ着てるし、下もスパッツ履いてるし、問題なんて何も無いのに。
一応膝にサポーターを着けて、その上からジャージを履いてスカートを下ろした。


「終わったよー」


上着の袖に腕を通しながらそう声をかければ、おずおずと不安そうにこちらを振り返る面々。
心なしか皆の顔が赤い。


「そんな気にする…?」


脱いだ制服を畳みながら言えば、視線をさ迷わせる彼らに周助が小さく吹き出した。
ちなみに、貞治の着替え中は勿論しっかり退出しました。



* * *



始めは皆勉強に集中し、分からないところを教えあったりしていたのだが…


「もう無理……疲れたぁ…」


唐突に、ごん、という音を立てて英二の頭が机に伏せられた。


「英二…まだ30分しか経ってないじゃないか…」
「もう30分もやったんだよ〜!?褒めて欲しいくらい!!」


テニスしたいよぉ、と駄々を捏ね始めた英二に、ふと貞治がラケットバッグをごそごそと漁る。
すぐに取り出されたそれは、まさか…どう見ても…


「菊丸、疲労回復と集中力を高めるための試作品があるんだが、試してみるかい?」
「え゙っ!!?」


どす黒いそれは一体…何が混ざっているんでしょうか…
うげ、と表情を固くした面々に、貞治は得意げにフフフと笑った。


「い、乾先輩…それって何が入ってるんすか…?」
「集中力を高めるために様々なお茶をブレンドしてみた」
「お茶だけじゃそんな色にはならないでしょ…なんかちょっと泡立ってるし…」
「フフ…聞きたい?」


ぶんぶんと首を振る私達を他所に、英二がそれはもう素早いスピードで問題集を解き始めた。
これはこれで案外効果があるのかもしれない…


「ちょっと飲んでみたくはあるけど」
「やめて周助…こっちにも被害が来そう…」
「ふふ、残念」


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